売買契約の締結後、私たち仲介担当者に現れる症状に「気の緩み」がある。第31回でも同じ指摘をした。こうなる原因は2つ考えられる。売買契約の締結で取引の山場を越したと感じてしまうこと、契約が済んだと他の顧客に目が向いてしまうこと。この2つだろう。経験よりも個性の問題で、取引は決済まで気を緩めない人がいる一方、決済近くまで気もそぞろという人もいる。筆者は残念ながら後者で、売買契約後は確実に気が緩むので、緩むのは当日までとし、翌日には「これではいけない」と気を引き締めるのが習慣となっている。
売買契約後に私たちが意識して取り組むのは「決済日までのスケジュール管理」と「スムーズに進めるための案内と確認」だ。問題を起こさないのは当然のこと、売主・買主ともに気持ち良く、スムーズに進ませる案内(指示)と確認は必要だ。売買契約から決済まで「何事もなく取引が終わった」と売主・買主に感じてもらうことが理想形と言えるだろう。
ただ、気が緩んでいるとそうはならない。売主・買主ともほぼ仲介担当者の案内待ちで動くからだ。案内者の気が緩んでいると先回りして考えられず、必要な手続きの案内が後手後手に回りやすい。また早めに行うべきスケジュール設定が遅れるのと、各手続きを行ったかの確認が漏れがちだ。売買契約後は気が緩んだとしても、早めに引き締めを図ることが必要だ。
案内は、買主なら住宅ローンの審査や金銭消費貸借契約(金消契約)の段取り、各必要書類の用意、自己資金の用意や火災保険の決定、室内外の確認、今住んでいる賃貸住戸の解約などの諸手続きだ。売主なら抵当権抹消手続き、各必要書類の用意、引っ越しの準備、室内外と付帯設備表の内容確認などだ。
「〇月〇日までにこの手続きを済ましてくださいね」、「〇日までに手続きしないと決済ができません」と案内をしていくことになる。
ただし、この案内だけでは不十分だ。「金消契約に必要な書類を集め終わりましたか?」とスケジュール通り各手続きが済んだのか、私たちで売主・買主に確認することも必要だ。中には「手続きの日を間違えていました。早急に用意します」とか、「区役所で納税証明書を取りましたが、必要なのは税務署で取る納税証明書でしたね」など、私たちが確認の連絡を入れることで売主・買主のスケジュールの勘違いや書類の取り間違いを防げることもある。積極的ではなくとも没交渉にもならず定期的に売主買主双方に案内確認の連絡をとり、必要ならスケジュール調整を図っていこう。
「早めに言ってくださいよ」売主・買主からそう言われたら、仲介担当者として失格の烙印が押されているかもしれない。気を付けていこう。
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【プロフィール】
はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。