角打ち「麹町いづみや」から四ツ谷まで歩き「太平山酒蔵総本店」へ。四ツ谷で最も好きな酒場のひとつだ。しんみち通りの雑居ビル1階の奥まったところに「秋田料理 太平山酒蔵」と堂々と書かれた暖簾がかかる。暖簾をくぐり引き戸を開けると、正面に厨房とカウンター席があり、左手には囲炉裏を再現したテーブル席などが並ぶ酒場空間が広がる。聞けば、60席程度はあるという。昭和41(1966)年創業。本場秋田の郷土料理と、秋田を代表する銘酒「太平山」のバリエーションを堪能できる。筆者のような一人客は稀だが、騒がしい店の中でもカウンターに座り、本を読みつつ静かに飲むのもいい。
店主の高橋幸夫さんは、「酒は天下の太平山」と書かれた法被を颯爽と着こなす。店主も女将もスタッフも寡黙だが言葉を交わすと素朴で温かい気持ちが伝わってくる。太平山酒造の酒は種類も多い。「純米秋田生酛」は淡白だが味わい深く、一合440円という値段に驚く。秋田美人の女将に聞くと、この10年でほとんど値上げをしていないという。
料理は「いぶりがっこ」など何を食べても美味しいが、極めつけは比内地鶏のもつ刺し(盛り合わせ)だ。比内地鶏の新鮮なレバー、ガツ、ハツ、ささみ肉が美しく盛られた逸品。その他、きりたんぽ鍋、比内地鶏の鶏刺し、ハタハタ、じゅんさい、とんぶり、山菜など、秋田の豊かな海の幸・山の幸が週に一度、独自のルートで秋田から直送される。酒は、醸造元である秋田県潟上市「小玉醸造」のものが揃う。「太平山」、純米酒無濾過生「生酛白神生別誂」、純米吟醸無濾過生「澄月無濾過生別誂」、純米酒「秋田生酛」、純米酒「白神山水仕込み」、純米大吟醸「天巧」、純米吟醸「澄月」、純米酒「てい月」など。四合瓶も純米酒「白神山水仕込み」3000円からと手頃だ。飲みやすく、飲み飽きない。10年ぶりに訪れたが、変わらぬ温かさが染みた。(似内志朗)




