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不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編88 ~畑中学 取引実践ポイント~ がけ下にある不動産は360度見渡せ 机上調査のみは擁壁問題を見落とす

 現地調査では対象不動産や隣地外でも目に見える周辺状況の目視確認と記録は必要であり、できるだけ買主へ説明しておくと良いだろう。

 特にがけ下にある不動産の場合は周辺から受ける影響が大きく、擁壁の崩壊や日照への悪影響など多くあるので目視の調査は必須となる。そして買主への説明には写真と書面で行い確認が必要と言える。

 具体的な調査方法は対象不動産へどのような影響を及ぼすかを念頭に土地なら敷地中央から、建物があるなら建物内から360度見渡して確認をしていく。基本は目視だけで良く、メジャー等での簡易計測は必要に応じて行っていくのでも十分だろう。

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 目視と記録が改めて必要と思わされたのが、今年9月末の杉並区の擁壁崩壊事故だ。擁壁が崩壊し、その擁壁上にあった建物も倒壊し区有通路、マンション1階ベランダまでがれきが雪崩れ込んだ事故となる。杉並区が事故経緯をホームページ(HP)で公開し、建築不動産の各専門家も解説コメントしているので詳細は省くが、崩壊した擁壁と被害にあったマンションの敷地は、その間に区有通路があるので対象不動産と隣地の関係ではないのがポイントだ。

 筆者も事故現場を見に行った際にまず思ったのが「対象不動産と隣地ではないので机上調査では擁壁の問題は見落としそう」ということ、「擁壁のひび割れが不動産売買時点で確認できていたか、いなかったのか問題になりそう」という2点だ。

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 後日、杉並区から擁壁には1984(昭和59)年から亀裂があったことの発表があり、売買時にはひび割れがあったと分かったが、現地ではこの2点を思い付いた。

 前者は現地調査の重要性と、周辺は隣地でなくとも目に見える範囲は目視で確認しておかなければならないことを再確認した次第。後者は周辺状況、擁壁状況を画像等で記録し、売買契約時に周辺状況等説明書などに写真を添付しておき、買主に説明をしておくのがベストなのだろうと考えた。

 この擁壁は、不動産売買時点でひび割れがあったので話は別だが、一番怖いのが売買時点にはひび割れがなく、売買後にひび割れが生じ崩壊となるケースだろう。買主から「ひび割れがあり、崩壊する危険性の説明がなかった」と責められることが容易に想像できる。そういった意味でも、がけ下不動産の場合は周辺の擁壁など見える範囲を撮影しその写真を買主に確認してもらうことが売買契約時には必要なのかもしれない。

 がけ下にある不動産は周辺状況の確認と記録がより重要となる、そう言えるだろう。

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【プロフィール】

 はたなか・おさむ不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。