そんな中、菅直人首相が7月13日、エネルギー政策の大転換を意味する「脱・原発依存」を打ち上げ、大きな争点になった。我が国の経済・社会の在り方をも変える重要なテーマだが、その具体的な道筋の中身がどうかと共に、今そこまで踏み込む必要があるのか、との疑問が出てくる。既存原発は当面、安全性が確認されるまでは「停止」されるほか、新設立地は、現実的には難しい状況にある。じっくり時間をかけて議論を重ねたうえで、国民的な判断を仰げばよいのである。
急を要するのは、原発事故の早期収束と被災地の復旧・復興への取り組みである。まず、救うべきは、地震・津波で家と家族、仕事の場を失った被災者。更に放射能汚染で故郷を追われ、避難生活を余儀なくされている被災者である。その人たちが何を求め、どう自らを、地域を立て直していくことができるのか。これに国が、国民がどう支援できるのか、を注視しなければならない。明日は我が身ではないが、命にかかわる喫緊の課題で、こちらが先である。
例えば、被災地の不動産価格は今どうなっているのか。震災以降、被災地でも不動産の売買や賃貸取引も行われた。だが、それが今後の指標になるのかは不明だ。住宅や不動産は実物として取引されるだけでなく、融資の担保としても利用される。
現在の資産価値、担保価値がどれくらいあるのか、少なくともその目安を知ることは、被災した個人、企業、更に地方公共団体や地域金融機関にとっても、復旧・復興への第一歩となる。お金が動くことで、経済が動く。「あらゆる復旧・復興は基盤となる不動産が出発点」という指摘もある。
■ 市場機能の早期確立を
だが、被災地の不動産価格の評価は、現実的には難しい。そのため、日本不動産鑑定協会は6月に被災地における鑑定評価の考え方(運用指針)を公表。また、日本不動産研究所も仙台市などをサンプル地域として震災減価率の最大目安を査定した不動産価格の「震災基準」を公表した。共に、不動産評価の専門家としての社会的責任を示した動きの一端でもある。
国、県レベルなど幾つもの「復興構想」が提案されているが、時間のかかる実現可能性に課題が残るものも目立つ。まず、被災者が現実的で具体的な第一歩を踏み出すことができるものかどうかが大事だ。その意味では、被災者、被災地域にとって最大の資産である、不動産市場の機能を回復させることも現実的な第一歩だ。住宅・宅地、農地・山林などの不動産が売買・賃貸できる、交換できる機能を早期に確立することで、人々が動き、地域づくりも踏み出すことができる。不動産市場関係者の今後の取り組みに期待したい。