暖冬とはいえ、時折、冬型気候の大雪に襲われる異常な気候が続いている。それに加え、新型コロナウイルスの猛威に、神経をとがらせる日々が続いている。しかし、古い言い伝えを持ち出して恐縮だが、「冬来りなば春遠からじ」である。春3月、4月も間もなくだ。そうすれば、陽光もきらめくだろう。その時を迎え、自己研鑽の準備を始めてみてはいかがだろう。厳しい時代に自分を守ってくれるのは、本当の実力しかないのだから。 (資格コーディネーター・高島徹治)
勉強する人たちでいっぱいのカフェ
仕事柄、喫茶店やカフェにはよく顔を出すが、最近驚くことがある。それは、カフェで、参考書を開き、勉強に励む若い人が多いということだ。住宅地の店では、3割以上、時には4割くらいになることがある。勉強の種類は様々。介護関係であったり、簿記であったり、語学であったり……。時には、中高年も混じるが、宅建士や社会保険労務士が多いようだ。
私が、資格取得に励んでいた30年前頃には、こんなことはなかった。勉学に励む人は、いるにはいたが、せいぜい1割程度だったように思う。
だから今は、ある意味で、「学習社会」が到来したということができるだろう。それだけ、人々はある種の知識を身につけていることを求められているのだ。自分が進もうとしている分野で、標準的な知識がないと、参入さえ難しくなってきている。そして、その標準的な知識の有無を測るのが、資格である。
第三者が証明してくれる専門知識
そもそも資格とは、何なのか。ここで、少しひもといてみよう。「資格とは、その人が業界において必要とされる専門知識または専門技能を身につけているかどうか、第三者が認定し、場合により一定の行為を行うことを認めるものである」ということになるだろう。
そして、認定する主体の違いによって、国家資格、公的資格、準公的資格、民間資格に分かれる。
かつては、国家資格が万能で幅を利かせていたが、小泉首相の構造改革で、国家資格の設置が原則禁止に近い状態になった。そのため、新しく登場してきた分野の「専門パーソン」を認定する民間資格の活躍の場が広がっている。
今は、民間資格は花盛りで、国家資格の隙間を埋める役割を果たしている。ただ、資格を立ち上げるのにはなんらの法規制もないので、中には、怪しげな団体が主宰している場合もある。その辺の見極めは、しっかりしなければならない。
ビジネスで資格を取得する意味
では、ビジネスで資格を取得する意味は、どんなところにあるのだろうか。
一つには、その業界への「参入切符」を手にできることだ。不動産業界を例にとると、業界に勤めただけでは、まだひよこである。気に食わないことなどがあると、さっさと転業し、他業界へ行ってしまう例も見られる。
ところが、宅建士やその他の資格を取り、名刺に刷り込んでいるとなると、顧客の見る目が変わってくる。「そうか、この人は、単なる補助者じゃないんだ。難しいといわれる資格も取っているんだから、業界で生きていくつもりなんだな」と、見られるようになる。一人前の業界人として、認知されるわけだ。(図1)
二つ目のメリットは、「試験勉強をしていて学んだ知識」である。私たちは、新聞を読んだり、ビジネス雑誌に目を通したりしながら知識を仕入れる。しかし、その知識は、往々にして他人事であることが多いのだ。ところが、資格試験で仕入れた知識は、合格するかしないかというシビアな状況の中で身につけた知識なので、記憶としての定着度が強いのだ。この知識を基軸にし、更にそれに加えて日々の新聞、専門誌、書籍による知識の「進化」と「新化」を測ることによってあなたの専門知識は、より揺るぎのないものになっていくだろう。いわば、専門知識に裏打ちされた「プロのビジネスマン」への入り口に立ったことになる。
無視できない「ハロー効果」
三つ目のメリットは、資格を取ると「ハロー効果」が生まれることだ。ハロー効果とは、人事考課などの際に使われる用語で、ある一つの点で優れていると、他の方面でも優れていると評価してしまうことだ。
テレビによく出てくるコメンテーターを例にとると、分かりやすいかもしれない。コメンテーターには、弁護士などが起用されることが多いが、この人たちは、法律以外の分野で、優れた見識の持ち主とは限らない。にもかかわらず、なぜか、その意見が全国ネットにのり、世論を形成していったりする。もっとも、立場を変えてコメンテーターの側から見れば、これも弁護士資格を取ったメリットの一つである。
ところで、あなたの周りでも、資格を取ると、同じような現象が起きるかもしれない。何かにつけ、社内でも目立つようになり、会議などでも発言力が強まるのだ。これは、あなたにとって、決して悪いことではないはずだ。
資格はこうして生かそう
さて、最後に、資格を取った後、何をすべきか。資格の生かし方を含めて、箇条書きで紹介しておこう。
(1)資格取得に成功したら、まず人事課と上司に報告する
(2)希望部署への異動希望があれば、はっきり述べておく
(3)資格者同士の研修会や会合には、必ず出席する
(4)積極的に社内講師を名乗り出て、講師を務める
(5)社内で関連知識の研究会やサークルをつくり、会社貢献を図る
(6)同じ資格を再受験し、知識や技能の陳腐化を防ぐ
(7)次の資格は、業務との関連や、自分のキャリア開発を総合的に考えて選ぶ
(8)会社の将来方向も視野に入れて選ぶ
(9)資格を増やすときは、まずは垂直型(縦型)を目指すのが普通
(10)縦型が成功したら、業際(近接業務)を攻めていく
(11)資格を鼻にかけるべからず。資格の矜持は、胸におさめよ
(12)資格者は、社内の問題解決役と心得よ
やる気を生み出す源 脳を操る4つのポイント
資格の重要性は、ご理解いただけたことと思う。ただ、こんな反応を示す方も少なくないのではなかろうか。「合格するには、相当な忍耐が必要だからなあ。いつも、思い切り張り切って始めるんだけど、進むうちに、分からない点が出てきたりすると、それがきっかけになって、挫折してしまうんだ」。何とか、これは食い止めたいものだ。
そこで、どうやったら、やる気が起こるのか、脳科学の研究から探ってみよう。
側坐核がやる気の元締め
脳内にある側坐核と呼ばれる直径2ミリほどの小さな部位が、「やる気」を生み出す源だということが分かっている。どのようにして、側坐核でやる気が生まれるのか、その仕組みはこうだ。
まず、意思や想像の脳である前頭連合野が、状況を判断し、起こすべき行動を決める。その行動を実際に起こすためのアクセルとなるのが、側坐核である。
このアクセルは、「好き嫌い」という感情や、本能的な「欲望」の影響を、もろに受ける。好き嫌いは、扁桃核で判断され、「好き」と判断されると、強力なエンジンとなり、視床下部という最も原始的な脳では欲望が生まれ、それがガソリンとなる。
つまり、やる気を起こし、それを持続させるためには、脳の4つの部位――前頭連合野、側坐核、扁桃核、視床下部――が関わっているわけだ。
この4つを上手に操るには、次の4つがポイントだ。
(1)目的意識を持つ(なんのために? 何が望み?)
(2)好きになる(その勉強や仕事が好きになる)
(3)欲望を高める(欲望がかなった自分を想像する)
(4)やる気のエンジンを点火させる(アドレナリンを分泌させ、テンションを上げる)
この4つのポイントが、相互に作用し合って、やる気が高まるわけだ。
弾みがつく勉強法を
やる気を持続する3つのポイント
このように、何かをやりとげるには、「やる気」が必要だ。次に、目標を達成するためには、このやる気を持続させなければならない。さもないと、冒頭で述べたように、万年落伍組みになってしまいかねない。
人間は、誰でも自分に甘い。ついつい先延ばしして、3日坊主で終わってしまう例は、枚挙にいとまがないほどだ。
そうならないためには、次のようなことを心がけよう。
(1)最初のハードルをできるだけ低く設定する
最初から上級者コースを設定する人を見かけるが、これでは、息切れがして途中落伍するのは目に見えている。まずは、初心者コースから始め、慣れたら中級者コースにするなど、とにかく欲張らないことだ。
(2)成果が目に見えるようにする
テストごとの成績や、仕事の場合なら日々の成果を表などにして、「見える化」するとよい。
(3)「成果は累乗的に表れる」ことを肝に銘じよう
最初は、遅々として進まないように思えるものだが、知らず知らずに腕が上がっていて、同じ時間でも、今までの2倍、3倍の修得ができるようになっているものだ。(図2)これは、スポーツの練習でもいえることである。
少し次元は違うが、やる気を持続するためには、勉強環境を整えておくことも、心がけよう。勉強しようと思った時、すぐ取り掛かれるようにスタンバイしておくということである。これだと、気持ちよく取り掛かれるので、やる気が萎えることがない。
目標を小分けにし大目標を達成する
やる気を起こすもう一つの方法に「シェーピング法」がある。最近ではあまり見かけないが、ハトが卓球をすることを見せるものがあった。ハトに卓球をさせるなんて、どうやったら可能なのか不思議に思う人も多くいた。
実は、動物に学習させるのは、根気と愛情があれば、特別困難なことではないという。もちろん、一気に目的を達成させようとしても、それは無理。コツは、スモールステップという小さな段階を重ねていくことだという。
まずは、ごく簡単にできる課題をハトに与えて挑戦させる。何回かやるうちに、必ず成功することがある。そこで、すぐご褒美をハトにあげる。次に、もう少し難しい課題に挑戦させる。そして、成功とご褒美を繰り返していく。こうして、ただのハトが、信じられないような「スター」に変貌していく。
目標を小分けにして、最後には大きな目標を実現させるこの方法を、心理学では、「シェーピング法」と呼んでいるが、この訓練法というか学習法は、私たちの勉強にも取り入れ可能だろう。何か目標を持って勉強する過程で、要所要所に、成功体験を味わえるように、挟み込んでいく。これが、喜びとなって落伍しないどころか、ますます勉強に弾みがつく。こうして、やる気を持続できれば、最後には大きな目標を達成することも可能になるというものだ。(図3)
「合格体験記」をスタート時に書く
最後に、やる気を持続する極め付けの方法をご紹介して、締めくくりとしよう。その方法とは、願いがかなった自分、成功した自分の姿を想像してみることだ。しかし、それだけではない。受験に成功した立場で、早々と合格体験記を書いてみるのだ。
こうすれば、成功した「快感」を味わうことができる。その気持ちのよさが、「よし、絶対やるぞ!」というモチベーションを呼び起こすのだ。加えて、ゴールまでに遭遇トラブルやアクシデントまで、仮想体験ができ、それに備えるという意味でも、役に立つ行為である。(図4)
〈参照〉図1『図解 50歳からの頭がよくなる「体験的」勉強法』講談社、図2~4『資格王が選んだ[合格保証]勉強法』PHP研究所より、改編