自宅は職場、学校、スポーツジム、聖域、世界からの安全な避難場所――これはマイクロソフト社のWeb広告に見つけた言葉。これからの住まいは様々な役割を担うことになるという意味だ。「世界からの安全な避難場所」というのは、おそらくこれからもパンデミックが起きたときには自宅にこもるしかないという意味だろう。
コロナ収束後も住まいの多目的化は進むだろう。在宅勤務で夫婦にとっては仕事場となり、子供にとってはオンライン授業で教室に、休日には家族それぞれの趣味や運動を楽しむ場にもなる。そればかりか、遠隔医療による診察室になる可能性もあるだろう。
もちろん、どのような家に住むのかはその人のライフスタイルや趣味、思想に基づくわけだが、将来的には一部の機能を政府が義務化するようになるかもしれない。
例えば一人当たりの最低居住面積、省エネ基準、衛生管理や防災・減災対策上の措置、空気質や抗菌性などだ。その場合は当然すべての国民が一定レベル以上の住まいを確保できるようにする責務が国に発生する。その時、必要となる施策とは何か。
一つは〝住宅版・ベーシック・インカム制度〟ではないか。つまり、すべての国民(世帯)を対象に、自宅としての住宅を買うときは1000万円、借りるときは100万円を国が支給する。これは究極の景気刺激対策にもなるし、人口減少が続く日本だからこそ可能な施策ともいえる。その代わり、既存の複雑化し過ぎた住宅優遇制度は廃止すべきだろう。
定期借地権の再考
もう一つは住宅を取得する際の権利形態(所有権、借地権、借家権)を柔軟に捉える思想の普及である。それが住宅取得の選択肢を広げ、住宅市場全体を活性化するだろう。そこで、「今こそ定期借地権を再考すべき」と提唱している大木祐悟氏にその真意を聞いた。
――定期借地権の再考が必要と主張する根拠は。
不動産が〝負動産〟と揶揄される時代になったが、それは所有という観点からしか見ていないからだ。利用という観点も取り入れるのが知恵というものだが、今は若い世代を中心に利用中心の考え方が増えてきた。定借なら広い家でも取得しやすい。定借は創設当時よりも今のほうが時代のニーズにマッチしている。
――ただ、事業者側に定借実務に長けた人材が今はいないとか。どうすればいいか。
難しい問題だが、座学を中心として、まずは定期借地に興味を持ってもらうことだ。興味を持った人が会社に働きかけ事業を再開してもらうしかない。座学については、定借プランナーや定借アドバイザーという資格を認定する組織が全国にあるし、私が主宰している「定借塾」もある。
――今はテクノロジーの進歩の速さもあるし、今回のコロナや、近年の大災害などまさに「何が起こるか分からない時代になった。50年~70年後の土地返還を約束する定期借地権というものに違和感はないだろうか。
定期借地権の契約と管理を
適切に行うことで問題は回避できる。例えば利用の必要がなくなれば借地人から中途解約の申し出もあるだろう。その時は中途解約をした後の土地建物をどうするか、地主が検討すればいいわけで大きな混乱はない。要は〝利用〟という概念が定着していくかどうかだ。
――定借マンションは本当に契約を終了させることができるのかという議論がある。 所有権マンションの建て替えと比べれば、契約で期間が決まっている定借マンションの終了手続きのほうがはるかに容易だ。
日本は今後数十年にわたり人口が減り続けるので、不動産のあり方も確実に変わる。そうした中で、住まいは必然的に利用価値重視となっていく。例えば中古物件の土地を定借で借り、建物をリノベーションする人も増えるだろう。あるいは、10年~20年の長期定期借家権で賃料一括前払い型の仕組みを作るのもいいのではないか。