コロナ禍で人との接触や対面を避ける暮らしが日常になる中、リビングやキッチンを居住者同士で共有するシェアハウスに新たな動きが――。注目すべきは働き方改革と連動する暮らし方の変化だ。最近オープンした新型シェアハウスを取材した。
コロナ禍による意識変化は衛生面だけでなく、働き方や暮らし方の選択肢も広げた。
首都圏を中心に「シェアプレイス」のブランド名でシェア型賃貸住宅を手掛けるリビタの担当者は、「在宅ワークの定着によって、在宅時間が増えたことで、(顔を直接合わせる)リアルのコミュニケーションを職場ではない場所に求める人が増加。特に一人暮らしの場合、それが顕著で、シェアハウスを選ぶ人が出てきている。更に、企業側も課題として捉え、社宅としての問い合わせも増えている」と話す。
職場に縛られない働き方が浸透することで、身軽に移り住むライフスタイルはより普及していくと見る。そこで同社が9月にオープンした21棟目のシェアプレイス「下北沢」(東京都世田谷区、全43室)では、共用スペースに予約制で利用できるワークラウンジを設置すると共に、入居者限定サービスとして定額制の多拠点生活プランを導入した。全国の登録拠点を自由に使える。コミュニティに新たな関係をつくるプラットフォームとして提供している。
程よい距離感で
コスモスイニシアも従来とはひと味違うシェアハウスを始めた。このほど開業したシェアレジデンス「nears(ニアーズ)川崎」(神奈川県川崎市、全69戸)で、コンセプトは〝緩やかな隣人のいる新しい暮らし〟だ。プライバシーを維持しながらも入居者同士が密接過ぎない程よい距離感を保ちつつ、楽しいコミュニティ形成を目指す。そのためコミュニティを活性化するオンラインアプリといったデジタルツールも導入。各居室はトイレやシャワーなどの水回り設備を充実させ、共用スペースはリモートワークの場として、また入居者同士がゆるやかにつながる場となるよう、キッチン・ダイニングのほかテラスやライブラリーなど気分に合わせて選べるよう様々なタイプを用意した。
同社によると、入居は順調で、当初想定よりも幅広い年齢層から問い合わせがあるという。
いわば大家族
日本シェアハウス協会の山本久雄代表理事はコロナの影響についてこう振り返る。「当初、共同生活での感染リスクを心配して退去者が増えることを懸念していたが、結果として杞憂(きゆう)に終わった。その理由は2つ。1つは協会会員である運営管理会社による徹底した感染対策。もう1つは何よりも入居者同士の交流関係ができていたこと」。入居者同士はいわば大所帯の〝家族〟であり、見知らぬ外部の第三者と接するという意識はない。むしろ家族同様だからこそ、互いに衛生面に気を使っているという。
シェアハウスはコロナを機に時代の新たなニーズをつかんだようだ。人とつながることの大切さが再認識され、そのスタイルにも今後多様な進化が見られそうだ。
(井川弘子)