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沖縄復帰50年(上)占領が生んだ軍用地取引 国の借地料が裏付け 売買活発 落ちない資産価値に買い殺到 日米防衛最前線に特異市場 銀行の担保評価額50倍超へ

 米国統治下から沖縄が日本に復帰して今年5月15日に50年を迎える。この半世紀を振り返ると、リゾート地として国内外から観光客や移住者を引き付けてきたが、なお国内の米軍基地の7割が集中する現状は変わらない。戦後、地元住民の住宅や農地などの土地に米軍基地が整備され、軍用地と化した土地の返還を求める声は高らかだが返還を期待できない土地が多いのも現実だ。国は地主に借地料を支払う。半世紀という時間軸の中で軍用地を売買する新たな不動産市場が生まれた。地価が下落しない、資産価値が落ちない土地として人気を博す沖縄軍用地の取引を追った。

 「運用している軍用地の一部を21年に売却したが想定以上の早さで売り切れた」。

 東京からの移住者で不動産投資家の一人はそう話す。868m2を16分割して1口500万円で小口購入できるようにしたら4カ月間で完売。

 「当初は1年間かけ売り切れればと考えていたが…」とうれしい誤算にほおが緩む。移住を検討する人やインテリアコーディネーターなど仕事で長年の付き合いのある人などが買い求めたという。

 軍用地とは米国駐留軍用地や自衛隊施設用地などを指す。嘉手納飛行場や那覇空港、駐留軍貯留施設、弾薬庫などの用地を取引するが、軍用地を購入する人の理由は様々だ。相続評価額を約4分の1まで圧縮できることで相続税対策として購入する人が多いが、最近は不良債権化するリスクがない土地の強みを生かして資産運用先として人気が高まっている。土地の資産価値は上がり続けており、軍用地の地主に支払われる国からの借地料は全体平均で毎年1%ほど上昇している。嘉手納飛行場では過去20年間で約25.6%上昇となった。

借地料は毎年1%上昇

 防衛省の沖縄関係経費に盛り込まれている土地の借地料は22年度も前年度同様に1.0%アップの予定だ。今国会で予算が決定する。沖縄県軍用地等地主会連合会(土地連)が前年比5.8%のアップ率を要求し、それに対して防衛省は0.8%アップで打診していたが最終的に1%アップで予算を計上した。過去には民主党から自民党・安倍政権に移行したときに3%台の上昇率の年もあったが基本1%台で推移している。

 軍用地投資研究家で沖縄移住アドバイザーの三浦弘人氏(那覇市、ミウラオキナワ合同会社代表)は、「各地の地主会の声を拾い上げて土地連が防衛省と交渉する。土地連は0.8%では要望に対して遠く及ばないと突っぱねるが、国の言い分として、基地関連は借地料以外にだいぶお金がかかる。その中で1%のアップ率は厳しいとの文脈で交渉に当たっての落としどころが1%アップになっている」と説明する。国とのせめぎ合いも台湾問題を巡る米中対立など沖縄の基地の重要性が増しているだけに借地料が下がる要素は見当たらないと地主は満額回答に遠くても矛を収める。

 沖縄県内には地主の権利保護を目的に軍用地などが所在する市町村ごとに22の地主会がある。

 土地連によれば地主数は直近20年7月末時点で約4万人となっているが、毎年、数百人単位で地主数が増えていることから4.5万人超との見立てもある。地主が相続などで子どもに土地を分筆したり、冒頭の個人投資家のように16分割で売却するなど地主の数は増加の一途をたどっている。

打ち出の小づちを求める

 軍用地の土地取引は通常とは異なる。基地内であるため立ち入りできない。このため登記簿謄本や公図、航空写真などを使い土地を確認して取引する。こうして手に入れた軍用地の投資妙味は何か。  一般的な投資家目線で言えば利回りとしての魅力を欠く。前述の1口500万円で売り切った借地料は年間約8.5万円と利回りは1.6%程度にとどまる。もっとも、ゼロ金利の銀行にお金を寝かせておくよりは複利効果を得ながら運用商品として成り立つものの、買いが殺到する理由はそこではない。軍用地に対する銀行の担保評価額が高いことが挙げられる。

 その評価額について前述の三浦氏は、「琉球銀行の場合、那覇空港と嘉手納飛行場で50倍になっている」と話す。つまり、借地料ベース50倍まで融資に応じるということだ。 上別表にあるように嘉手納飛行場の21年の借地料は100m2当たり16万円強であることから、銀行評価50倍で820万円まで貸し出す。13年に35倍だった評価倍率は22年には60倍まで引き上がるとの予測も見られる。その場合は100m2の軍用地に990万円まで融資できる計算となる。

 軍用地が新型コロナ禍で経営赤字を埋める助け舟になった。飲食店や民宿などの売り上げが急減したため、軍用地の一部を売却してしのいだケースが見られた。

 軍用地を〝錬金術〟として使う。例えば、年間2000万円の借地料をもらっている地主は1%アップで翌年20万円増加する。この増加した分に相当する土地を分筆して評価額通りに50倍で売却できれば1000万円が現金化でき、新たな収益物件や事業の運転資金に振り向けられる。 コロナ感染の当初は売り急ぎなどで軍用地の相場が下がったが、今では相場を戻してなお上値を追う展開だ。ゼロ金利下の運用難の中で〝打ち出の小づち〟を求めて投資マネーが流れ込む。