今年の9月1日は、関東大震災から100年の節目を迎える。関東大震災をきっかけとして世界で初めて法令による耐震規制が導入されており、住宅・不動産業界にとっても自らのビジネスを進める上で、災害と向き合うことになった最初の自然災害だったといえる。その後も大きな地震を経験するたびに住宅や建築物の耐震規制も強化された。これまでの防災対策は、ハードの面が中心だったが、自然災害の被害が大きくなるにつれて、被害を想定したハザードマップが作成され、大きな開発では帰宅困難者の受け入れが当たり前で、ソフトの面も着目されるようになった。
この100年に起きた自然災害の中で、12年前の東日本大震災は、住宅・不動産業界にとって一つの転換点になったと言える。1995年の阪神・淡路大震災以降も建物の耐震性能は年々向上し、地震による建物倒壊や火災による被害はある程度抑えられたが、東日本大震災はインフラにダメージを与え、都市では帰宅困難者で溢れかえった。地盤の液状化で家が基礎から沈み込んで傾き、地下に埋設している水道管や下水管が断絶し、長い間、風呂やトイレが使えない地域もあった。
東日本大震災は、関東大震災以来続けてきた揺れに耐え、燃えない堅牢な住宅・建築物を整備するというハードの対策から、帰宅困難者への対応や軟弱地盤の有無、地域ごと被災危険度を示すハザードマップ活用などといったソフトの対策への比重を大きくした。防災訓練は、堅牢な建物の中に何人くらい、いつまでいられるのか、けが人や病人への対応はどうするのかといった点に力点が置かれるようになっている。
そして、最新の防災対策は、仮想空間に実際のビルを再現した「デジタルツイン」による防災シミュレーションなどDXの活用が検討されている。住宅についても、インフラが復旧するまで自宅で過ごす自宅避難という考え方も出てきている。東京都を始め、住宅に太陽光発電システムや蓄電池を設置することを支援する自治体もある。
地震を始めとした防災対策は、ソフト化やテクノロジーによる高度な防災対策へとその比重が移りつつある。ソフト化の流れの中で、忘れてはいけない視点がある。不動産仲介が防災に果たす役割だ。重要事項説明に水害ハザードマップの説明が義務化されたのは記憶に新しい。不動産仲介業は、法の義務を超えて、その物件の耐震性はもちろん、安全対策や地域の災害危険度などの情報をしっかりと把握して顧客に正しく伝えることにより、安心・安全な住まいの取得に貢献している。
関東大震災100年の節目を目前に控え、これまで目を向けられてこなかった不動産仲介業の防災に果たす役割を再認識し、着目する必要がある。