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今期も増収増益を計画 主要住宅・不動産各社の24年3月期決算 大手は軒並み過去最高益に 分譲事業は高単価で高粗利

 主な住宅・不動産各社の2024年3月期決算が出そろった。国内外で経済の不透明感がある中で、内需の代表格である不動産業界は好決算を残した。特に不動産大手5社は過去最高益を更新。主力のオフィス賃貸でコロナ前に迫る市況に戻りつつあると共に、マンションなどの分譲事業も販売価格が高騰する中でも堅調だ。大手各社は25年3月期も増収増益の見通しだ。ただ、不動産市場全体を俯瞰(ふかん)すると死角がないわけではない。なお続く資源高に伴うコスト高とマイナス金利解除後の金利情勢はオフィスや商業施設、分譲住宅の事業環境に悪化材料としてくすぶり続ける。

 大手5社を見ると、三菱地所が経常減益となったものの最終利益は全社で過去最高を記録した。三井不動産は売上高で12期連続、営業利益、経常利益、純利益が2期連続で過去最高を更新した。

 主力のオフィス賃貸事業で首都圏のオフィス空室率を見ると、単体ベースで2.2%(前年比1.6ポイント低下)だった。同社では、「ミッドタウン八重洲が空室カウントだった」と話す。分譲事業は3700戸を計上し、単価が1000万円以上もアップし、営業利益率が15.8%(同1.3ポイント上昇)となった。

 次期(25年3月期)の会社計画は本業のもうけを示す営業利益で3400億円と前年比0.1%の微増にとどまるが、純利益は3期連続で過去最高を見込む。事業利益ベースでは賃貸事業で約9億円増の1700億円を計画する。商業施設も増益計画だが、前期の物件売却益の剥落で微増を想定。オフィス空室率は2%前後の低水準を見通す。分譲住宅も単価上昇など利益率が上がる見込みだ。新築マンションは3650戸の計上予定に対して3月末時点で契約進捗率が84.4%と過去最高のスタート。「タワマンなど人気物件が押し上げた」(同社)。投資家向け分譲事業は減益の見通し。施設営業では東京ドームの成長が続く。

海外減益も国内で賄う

 三菱地所では、海外事業が想定通り約42%の減少だったが、投資マネジメント事業が想定外の120.1%減となった。これらを国内事業がカバーした。主力のオフィスビル事業は、全国ベースでの平均空室率が3.30%、丸の内は2.33%と市場平均を大きく下回る。分譲マンション事業は2271戸を計上し、粗利益率は25.9%と高水準となった。千代田区番町の物件が高い粗利の源泉という。

 25年3月期の業績予想は、海外事業と投資マネジメント事業の悪影響剥落で利益が拡大し、過去最高の営業利益3000億円(前年比7.7%増)と当期純利益1730億円(同2.7%増)をそれぞれ計画する。丸の内のオフィス空室率も3%程度で低位安定する見通しだ。

 分譲マンションは計上戸数が1750戸と減るが、粗利益率は29%を想定する。取締役執行役常務の梅田直樹氏は、「仕入れコストが高いが、それを上回る販売価格で契約できている」ことが利益率アップにつながるとみる。ホテルや商業施設のリオープンニングも増益に貢献する見通しだ。米国など海外事業でも売却益を積極的に取っていく。「米国は金利高で投資家が手を出しにくい状況。競争相手が少ない」(梅田氏)のがチャンスとみる。

 住友不動産は経常益が3期連続、純利益が11期連続で過去最高を更新した。営業利益(2546億円)も2期連続で過去最高だった。事業利益ベースでは、主力のオフィスビルで三田ガーデンタワーが通期寄与するなど不動産賃貸事業部門が増収増益だった。 販売事業はマンションと戸建て住宅、宅地を合わせて計上3524戸(前期比563戸増)と利益率の改善も手伝い増収増益となった。半面、仲介事業がさえなかった。

土地の仕入れは困難に

 次期業績予想も過去最高の利益をめざす。営業利益は2670億円(同4.8%増)を計画する。オフィス賃貸事業が1870億円と増益に貢献する見通し。不動産販売は、既に計上予定戸数3500戸に対する期首時点の契約率は90%に達するが減益を計画する。仲介事業と完工事業は増益を見込んでいる。

 次期中計での経常益3000億円を通過点とし、4000億円に向け東京都心に2兆円、海外事業でインドに7000億円を投じる計画だ。

 東急不動産ホールディングスも堅調な不動産市場を反映し、各利益とも過去最高だった。セグメント別では特に売買仲介事業が好調。26年3月期を最終とする中計の財務目標を2年前倒しで達成した。

 次期もポジティブに推移する見通しで、営業利益ベースで見ると、都市開発が売却益で707億円(191億円増)と増益を計画する。渋谷を中心とするオフィスで賃料上昇の傾向が強まっている。ホテルと不動産流通も引き続き好調だと見通す。物流施設などの戦略投資は減益を見込み、海外事業も赤字の見通しだ。

 野村不動産ホールディングスは、収益物件の売却やホテルなどが利益を押し上げた。海外事業が減益も主力の住宅を中心に国内事業がカバーした。25年3月期も分譲事業の好調が続く見通しでマンションの粗利は前期より0.4ポイント以上拡大して25%台を想定する。計上戸数は4000戸と前期から298戸減るが、既に通期計画に対する契約確保率は7割を超える。オフィスと売買仲介事業も底堅い。

 大手だけでなく中堅クラスも25年3月期で増益を計画する。ゴールドクレストは、昨年末に鎌倉で竣工した「クレストシティ鎌倉大船サウス」(総戸数215戸)を中心に約270戸の販売を計画する。粗利は前期(47%)同様に50%近くを見込む。同社では、「土地仕入れが極めて難しい。割安な物件で競合が出ることがない」と説明する。

国内外の金利情勢が肝

 不動産各社にとって死角はないのか。欧州・中東などのきな臭さも続いている。海外事業に打って出る大手は収益とキャッシュフローの変動性が高まりそうだ。欧米を中心とした高水準の金利が長期化すれば海外の不動産価値に下落リスクが強まる。収益機会の拡大に伴い負債調達を伴うことで融資利子負債も積み上がる。予見性が低い収益の依存度が高まれば信用評価上もネガティブになる。

 日銀がマイナス金利を解除した。中長期的な金利の上昇も観測され、好調な国内事業の土壌も変わりつつある。

 SBIアルヒは決算会見で「金利はいずれ上昇傾向になると想定している」と述べるとともに「新築マンションは底堅い需要が続くとみられるが、手が届きにくい状況であり、中古に需要が傾いている」と分譲住宅市況を説明した。

 東京カンテイでは都心を除くエリアでの売れ行きを危惧する。同社上席主任研究員の井出武氏は、「買い取り物件の再販値が下落している。在庫が積み上がってきたのではないか」と潮目の変化を感じる。住宅ローン金利が上昇に転じれば値崩れが始まる。

 分譲住宅市況について長谷工コーポレーションでは、「前期は首都圏・近畿圏とも販売価格が上昇し、件数と戸数の絞り込みが進んだ。今期以降も単価とグロス価格の上昇は続く」とみる。同社の業績は完成工事高が1割近く増えたものの営業減益だった。建材費と労務費の上昇が響き完成工事総利益率が2.9ポイント低下するなどが影響したものの、価格転嫁などが進み単体ベースでの受注高が5369億円と過去最高を更新した。次期の会社計画では、受注高の過去更新が続くも2期連続の営業減益の見込みだ。