総合

社説 人材不足は長期的課題 高度な人材育成が唯一の道

 人材不足がますます深刻になっていく。求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率は8月時点で1.23倍、新規求人倍率は2.32倍と高水準で推移している。今春に主要大手中堅企業を対象に本紙が実施した「住宅・不動産会社新卒入社アンケート調査」(回答48社)でも、24年度採用で「予定人員を採用できた」回答は29社と過半数を超えたものの、「予定人員を採用できなかった」は19社に上った。25年度採用も45%が「今年より増やす」と回答しており、多くの企業が計画通りに人材採用ができていないことが分かった。不動産業で割合が高い中小クラスに至ってはアンケートの結果以上に厳しい環境に置かれている。

 厚労省によれば、労働人口といわれる20~64歳の人口比率は、1990年時点で62%を占めていたが、2020年時点で全体の55%にまで低下してきている。更に2040年には50%まで下がることが見込まれており、人材不足は産業を問わず長期間にわたり、ますます厳しさを増していくことは必至だ。また近年は転職が当たり前の時代に変わり、並行して働き方改革が進んだことで働き方の多様化も定着してきており、人材採用を更に難しくしている面もある。

 特に不動産業は、高額取引であり業務負担が大きく、勤務時間も業務量も多くなりがちで給与格差も大きいといわれる。こうした業界イメージが定着していることから、不動産業が会社選びの選択肢にすら入らない傾向があることも事実だ。また住宅や事業用物件の流通、管理といった従来型のビジネスモデルも大きな曲がり角に差し掛かっている。少子高齢化で需要のパイが増える見込みが低く、産業としての成長は大きくは見込みづらい。一方で中古流通市場が拡大を続け、空き家対策や不動産の相続、資産運用といった不動産取引に関わる需要拡大が期待できる分野もある。

 士業に格上げされて9年目となった宅建士資格試験の受験者はほぼ右肩上がりで増加が続いている。今年度の受験申し込み者数は30万人を超え、「主任者」資格だった91年以来33年ぶりに大台を超えた。背景には、地価、家賃の継続的な上昇、好調な企業業績などを背景に、宅建業者数の増加が引き続いていることがあげられる。ともあれ宅建受験を入り口にして不動産業界を志す人材が増える傾向にあることは朗報だ。

 そして既に不動産業の実務者も新たに業界に就職した人材も分け隔てなく長期的に定着させて、実務経験を積み断続的にスキルアップさせていけるかがこの人手不足を克服する唯一の道となる。属人的で実務の難易度が高い職業であるがゆえに、自己成長と共にやりがいを実感しやすいことも事実だ。労働環境の整備を始めIT化の推進などにも取り組んで生産性を向上させ、更に魅力ある業界へと進化させていくことが求められる。