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酒場遺産 ▶61 豊橋 カク一 大正4年創業、最上の酒場

 昭和の面影を残す街、豊橋。この街に住む友人の道案内でディープ豊橋を堪能した。JR豊橋駅東口を降り5分ほど南へ歩くと不思議な光景に出くわす。長さ800メートルに渡り、中層の古い長大下駄履きアパートが橋の欄干を挟み一直線に並ぶ。これら通称「水上ビル」(豊橋ビル・大豊ビル・大手ビル)は、農業用水路「牟呂用水」の上に1960年代に築かれたものだ。第二次世界大戦で焼野原となった地で青空市場(闇市)をはじめた人々の商売・居住の移転先(1階が店舗、2~3階が店主の住居)として建てられたという。その長大アパートの一階「大豊商店街」に、大正4年創業の老舗、豊橋随一の酒場「割烹天ぷら カク一(カクイチ)」はある。二度目の訪問だったが、酒も食も大満足、特に海鮮は新鮮で絶品、サクサクの天麩羅(てんぷら)も美味かった。

 壁には日本酒のラベルがズラリと貼られている。静岡 志太泉、静岡 正雪、島根 扶桑鶴、宮城 墨廼江(すみのえ)、三重 瀧自慢、福井 黒龍、石川 加賀鳶、山形 麓井、秋田 翠玉、山口 中島屋…。値札はないが1合500円と安い。焼酎は広島 戸河内、福島 山桜プレシャス、鹿児島 酔神の心など、ウイスキーもそろえる。黒板には「今晩のお薦め」、おこぜ唐揚げ、金目鯛煮つけ、自家製薩摩揚げ、活鰻蒲焼・白焼き、いか腸焼き、鰺フライ、煮穴子、牛筋どて煮、鯨ベーコン、海老サラダ、こしあぶら、出汁巻き玉子など、食欲をそそるものばかり。酒場としては最高だが、昼も営業しており、刺身定食、天婦羅定食、魚フライ定食、活鰻蒲焼定食などランチメニューも人気だ。値札はなくとも勘定は心配無用。こんな酒場があるならば、豊橋に住みたい。(似内志朗)