量から質へ、所有から利用へ、モノからコトへ、ハードからソフトへ、フローからストックへ――などパラダイムの転換を促すスローガンは多い。新築戸建て市場では自宅用ログハウスを展開するBESS(アールシーコア)のブランド・スローガン〝「住む」より「楽しむ」〟が有名だ。
地域ディベロッパー、リブラン創業者の鈴木静雄氏は「不動産業は土地や建物ではなく、人間に目を向けた産業に変わればマーケットは無限に広がっていく」と述べている。
ファンドクリエーショングループの田島克洋社長は「人と同じことはしたくない。常に新しいことにチャレンジするから面白い」と言う。電力会社が固定価格で買い取る制度(FIT)ができると業界でいち早く太陽光発電事業を始めたし、「中国A株ファンド」「中国不動産ファンド」「ベトナム株ファンド」など日本でも世界でも初めてのファンドを次々と販売した。近年はマツリテクノロジーと組んだ民泊ファンドや運送会社からリースバックでトラックを取得する車両ファンドも始めた。
◇ ◇
アベノミクスがなしえなかった新たな成長産業の創出、閉塞感漂う日本社会を打破できるのはこうした民間のイノベーターたちである。
一方、政治の世界でも「誰一人取り残さない」政策が大きな目標となってきた。そんなことができるのかと思われがちだが、スマホさえあれば誰もが社会参加(投票)できるデジタル社会なら夢物語ではない。
日本では10月27日、衆院選挙の投票が行われたが〝一人一票〟を投票所まで行って紙で提出するやりかたはいずれ過去のものとなり、デジタル社会が進めば国民一人ひとりに一定数のポイントが与えられ、様々な価値観からいろいろな党の立候補者に〝分配投票〟できるイノベーションが起こると予想されている。
そうなれば、たとえ少数政党の意見でも国民は関心を持ち、耳を傾けるようになり、ときには自分の意見のほうが間違っているのではと考えることもあるだろう。国民が自分の意見に謙虚になること、それが「デジタル民主主義」の効果だとも言われている。
台湾の前デジタル担当相オードリー・タン氏は「自分を大切にすることは、他の人を大切にするための練習だ」と語る。自分の意見と合わない人とどう付き合うか、それがこれからの人間関係において最も大切な、かつ重いテーマになる予感がする。〝おともだち内閣〟が批判されるのもそのためだ。
そもそも今の選挙制度はおかしい。地球温暖化にしても影響をもろに受けるのは18歳未満の若い世代なのに彼らに選挙権を与えていないのはおかしくないか。少なくとも中学・高校生なら判断能力はある。
住文化の効果
DXの議論をしていると、「デジタルの先にいるのは人間」という指摘がよく聞かれるが、それは計算や情報処理の部分は機械にまかせ、それで浮いた時間を人間同士のコミュニケーションにあてようという趣旨である。しかしよく考えれば、より多くの時間をあてたからといって、それでコミュニケーションの質が高まるとは限らない。
よりよいコミュニケーションに必要なのは、まず自分のことはさておき、相手の意見をひたすら傾聴する姿勢である。自分を無にして相手の心に入り込むと言ってもいい。つまり一時的には自分ではない自分になる。それは決して難しいことではなく、少しの訓練を積めばむしろ楽しい経験だし、ときに新たな自分の発見にもつながる。
鈴木静雄氏が主張するごとく不動産業が〝土地・建物産業〟から〝人間産業〟へパラダイムシフトすればたとえ政治が変わらなくても日本の社会が大きく変わる。
なぜなら、生活の基盤たる住まいの在り方が変わり、住文化が芽生え、人々の心に人を思いやる余裕が生まれてくるからである。