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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇151 日中韓居住問題国際会議 薄れる結婚願望の背景は 3カ国共通の単身化社会

 第21回日中韓居住問題国際会議が11月1日、2日の二日間に渡ってオンライン開催(対面会場は名古屋の中京大学ヤマテホール、同時通訳付き)された。今回は人口構造の変化に焦点を当て、持続可能な居住環境を実現するための方策が議論された。具体的には子育てや単身世帯を支えられる居住環境、住宅と住宅地の再生という課題が取り上げられた。

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 同国際会議は日本居住福祉学会(岡本祥浩会長)、中国不動産協会並びに韓国住居環境学会の協同によるもので国際学術交流の一環。その目的は、全ての人々がその人にふさわしい居住をかなえられる居住空間の整備を目指すことにある。3カ国が交代で毎年実施していて来年は韓国で開催される。

 単身世帯の増加は3カ国共通の課題で、第1セッションでは日本側からの報告として葛西リサ追手門大学准教授が「母子世帯の事例からみる居住貧困の女性化~平時と非常時の住宅事情の関係に着目して」と題して講演した。

 葛西氏は「母子世帯では子の収入を含めて家計をやりくりしている事例は少なくない」として、コロナ下の非常時には子のアルバイト収入がなくなって家賃が払えなくなったケースもあることを報告。母子家庭の平時の貧困が、非常時に大きな悲劇を招いている実態を明らかにした。

 第2セッションは韓国のキム・ソンジュ京畿大学教授の報告で始まった。キム氏は「韓国の高齢化は世界的にも進行が早く、それに伴い高齢者の一人暮らし世帯における住宅の不安定性や社会的孤立の問題が深刻化している」と述べた。日本側からは日本社会事業大学大学院教授の井上由起子氏が講演し、「高齢者の単身化はこれまで家族が果たしてきた機能を誰が担うのかという問題だ」と指摘。賃貸住宅における大家の役割、セーフティネット法による居住支援、福祉と住宅との連携など幅広い観点から問題提起を行った。

3世代近居

 第3セッションのテーマは住宅と居住地の再生で、日本側からは筆者が「空き家活用による3世代近居促進策が日本を救う」と題して講演した。持ち家の10軒に1軒が空き家となっている今こそ、それらを活用して親・子・孫3世代が近居できるようにする社会工学的変革こそが我が国の地域再生の唯一の道と訴えた。第3セッションのコーディネーターを務めた中国房地産業協会の朱彩静氏も「利用されない建物や住宅が増えている。そうした空き家の増加は公衆衛生、治安・防犯、防災、景観上の問題をもたらし、地域の衰退にさえ至っている。空き家や空き地の利活用を通した衰退地区の再生は持続可能な居住地形成の仕組み作りの大きな柱になることが期待される」と指摘した。

 会議2日目は第4セッションとして、3カ国の若手研究者らが今回の主題を超えて意欲あふれる研究について報告した。提起された新たな課題は次回以降の主題に発展させるという。

 全体を通じて筆者は研究者たちの学術的深い分析力に圧倒された。現代社会の課題解決にはときに感性による直感も必要だが、地道にアンケート結果を分析する力、精緻な心理学的解析、過去の施策効果の検証などがなければ一歩も前に進めない世界であることも分かった。

 それにしても日中韓の3カ国が時を同じくして単身世帯の増加、わけても高齢者の一人住まい、地域コミュニティの衰退などに頭を悩ましているのはどういうことか。若者の結婚願望の薄れ、女性の出生率低下、貧富の格差拡大と住宅弱者増大も共通している。

 人類の生物的変化が始まっているという説もあるが、社会的動物と言われる人間の差別意識や自尊心、自我の膨張など深い人間心理の闇に原因があるような予感もする。居住問題の研究者たちがそうした哲学的領域に踏み込む日もそう遠くないのかもしれない。