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社説 入居者高齢化に備える 管理側に求められる意識改革

 賃貸住宅市場では高齢者入居の敬遠が続いている。認知症発症や孤独死に対する警戒感が強いためだ。しかし人生100年時代を迎え、これからは今入居している人の高齢化への備えが必要になる。定期借家権契約でない限り、高齢になったからといって入居者を退去させることはできないからだ。

 現に、ある不動産会社の話では、更新時に65歳以上になっている場合には「見守りサービス」を付加したり、別の不動産会社は孤独死対応とセットになった家財保険に入ることをお願いしているという。

 しかし、家の中での転倒や突然の病気発症、認知症などが問題となるだけでなく、入居者の高齢化には独自の課題もある。それは、今までは現役だったから問題なく払うことができていた家賃が、定年退職で払えなくなったり、年金生活者になり持病の悪化による入院など急な出費があっただけで家賃が払えなくなる可能性があるという点だ。

 このように、入居者の高齢化問題は従来からの入居拒否問題以上に深刻なテーマだということが分かる。では、オーナーや管理会社はこの新たな事態にどう向き合っていけばいいのだろうか。それは何か問題が起こる前に「日頃から入居者との連絡を密にして手を打っておく」ということに尽きるのではないか。

 生活基盤である住まいを貸している社会的役割を背負う重要なサービス業であるという自覚を、オーナーと管理会社が連携して持つということだ。若者も含めた全体の平均入居期間は3、4年でも、今後増える生涯未婚者や離婚者などでは、その期間が10年、20年以上に及ぶケースは増えてくるだろう。貸す側と借りる側の関係が長期化すればするほど、貸す事業者側(オーナーも含む)としては、入居者に寄り添ったサービスが求められるのでないか。

 具体的にはラインのようなツールを使って日頃から悩みを相談受付する体制や、収入減による家賃負担懸念には同じオーナーが所有する別の低廉物件への移動なども考えられる。他社の低廉物件ではまさに〝入居拒否〟にあう可能性が高い。その際にオーナーに期待したいことは、長年入居してくれた感謝の意として、家賃を多少割り引きしたり、オーナー負担で見守りサービスを付加したりするような配慮だ。仮に20年間住み続けている場合、4年で退去されるケースと比べると5回分の入退去時クリーニング・リフォーム費用が浮いたことになるからだ。

 ただ、そうした金銭関係以上に大切なことは、人生100年時代を迎えた今、管理側に必要な心構えとしては、「入居者は未来永劫同じ状態ではない」(賃貸トラブルに詳しい司法書士)という当たり前のことを前提に、入居してもらったその日から交流を始めるという覚悟だ。