政治、経済、家庭、SNSと千々に乱れる現代社会。国民生活の基盤といわれる不動産業は今、何をすべきだろうか。「一生に一度」「人生最大の買い物」と言われる住宅部門が率先して国民に寄り添う姿勢を示せば社会を覆う閉塞感にも一筋の光明を見出すことができる。
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国民が住宅に求める機能や性能はその時代の世相を表している。例えばより強固な耐震性や耐久性は頻発する自然災害や予測される巨大地震への備えである。断熱性や省エネ性は家計の光熱費削減にとどまらず地球環境問題への配慮でもある。防犯(セキュリティ)機能は昨今の闇バイトを使った強盗事件で最大の関心事に上っている。
そして〝人生100年時代〟を迎えた今、新たに住宅の金融機能が脚光を浴び始めた。リバースモーゲージ、自宅のリースバック、住宅金融支援機構の「リ・バース60」などがそれだ。長生きをすれば、不意にまとまったお金が必要になる確率が高まる。その多くは不慮の事故や災難、病気による入院費用などが想像されるが、「リ・バース60」はやや性質が異なり、生活資金に活用することはできない。
(1)主に高齢者本人が新たに建設または購入する住宅資金、(2)サービス付き高齢者住宅への入居一時金、(3)子世帯が取得する住宅資金などに活用できる。担保とする物件は(2)と(3)は高齢者(親)世帯の自宅となるが、(1)の場合は新たに建設または購入する住宅となり、利用実績としてはこれが最も多い。
つまり、自宅を担保に老後を豊かに送るための資金を借りるという従来のイメージとは違って、高齢者が理想の終の棲家を持つための資金として活用されている。しかも新たな住まいとしては新築マンションよりも注文住宅が圧倒的に多い。ひとは人生の集大成として自分の思いを込めた住まいづくりに夢を抱くものらしい。リ・バース60の融資実績(付保申請戸数)は当初は年間200件ほどだったのに対し23年には1626件と右肩上がりで伸び続けている(累計は7919件)。
楽しむ人生
12月7日、北澤艶子不動産女性塾塾長の卒寿を祝うコンサートが「ハレキタザワ・ブックカフェ」(東京足立区)で開かれた。ここは3年ほど前に北澤商事が地域の人たちの憩いの場、読書やコーヒーを楽しみながら気軽に交流できる場となることを願って開設したカフェである。地域でもひときわ目を引く瀟洒な建物で、優雅な庭園を挟んだ先には北澤艶子氏の住まいがある。
親しい友人・知人約40人を招いてのコンサートは艶子氏の師匠などプロの人たちによる友情出演もあり華やかで楽しい舞台となった。一部・二部を通じて数曲を披露した艶子氏は歌だけでなく合間のトークも絶妙で会場を笑わせ続けた。
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ひとは何のために生まれてくるのか。人生を楽しむためというのが最もシンプルな答えだと思う。北澤商事創業者の艶子氏は自ら天職と呼ぶ不動産業で成功し、創業70周年という節目を控えた今、仕事と趣味と地域に溶け込んだ暮らしを楽しんでいるように見える。地域に貢献したいという想いは地元を愛する北澤商事の強い信念でもあり、住まいに隣接するカフェでは定期的な読書会、ウクレレ教室、コンサートなど様々なイベントが開かれている。
この北澤家の例は一般的には極めてまれなものかもしれない。しかし、住まいは本来地域と共にあるという思想は閉塞感漂う今の日本社会だからこそ重要になる。近年の日本の住まいは外形的には閉鎖的なものが多い。地域コミュニティを重視するならかつての縁側が備えていたような外に開かれた設計が必要だ。防犯という制約を踏まえたうえで、どうすればもっとオープンな住まいづくりができるのか。これからの住宅・不動産業に課された重要な課題である。