不動産業は開発、流通、賃貸、管理の4部門があるが、何といっても華やかなのは開発だろうか。駅前の風景を一変させるタワーマンションや商業施設、ホテルを出現させ、近年は郊外に巨大な物流施設やデータセンターなどを建設している。常に時代が求める最先端のニーズを捉え、しかもその仕事が形になって後世に長く残るとなればそれにまさる喜びはない。その意味で不動産開発はまれなほど大きなやりがいを感じる仕事の一つといえるだろう。 しかし同時に、開発事業はその大きな建造物が街の風景や環境を一変させる。時代の変化が速い中、その街にずっと暮らす人たちに与える物心両面のインパクトは計り知れない。それだけに後世に対する責任は大きい。
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開発部門の一つである新築住宅市場は価格高騰が深刻だ。不動産経済研究所によると24年1~9月に供給された首都圏新築マンションの平均価格は7953万円となり2年連続で過去最高となった。今年は金利上昇懸念が強まる中、一般勤労者世帯の住宅取得意欲がどこまで付いてこられるのか最大の課題となる。
建築費高騰が収まる気配は今のところ見当たらない。ならば当面は流通市場が肩代わりか。既存住宅はストックが増える一方で築年数も経過していくため、庶民にとっては価格面では選択肢が大きく広がる市場だ。新築は今や一部の富裕層がターゲットだが、より幅広の顧客層を抱える既存住宅市場の社会的使命は大きい。
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不動産業の中でも最も歴史が古く、その原点と言われているのが賃貸住宅あっせん業である。今以上に格差が広がれば、既存住宅でもマイホームが持てる層は少なくなり、多くの国民にとっては賃貸住宅が唯一頼れる大事な生活基盤となっていく。単身世帯の増加もそこに拍車をかける。
国立社会保障・人口問題研究所によれば25年の今年、単身世帯が全体の40%に達し、50年には44%にも達するという(24年4月公表)。経済的にマイホームを断念せざるを得なくなる層も、一人暮らしだから「持たなくてもいい」と考える層も共に増えていく。賃貸住宅の質的向上は社会的喫緊の課題となってくる。
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集合住宅は民主主義の〝実験場〟と言われたことがある。分譲であれ、賃貸であれ多くの見知らぬ者同士が〝一つ屋根の下〟で暮らすからである。大事な資産である分譲マンションには区分所有者による管理組合があるように、賃貸マンションにも入居者らが自ら生活ルールを決める組織がなければおかしい。賃貸住宅の入居者にとっては、そこでの生活そのものが資産なのだから。ルールを自ら決めるとそれを守ること自体が楽しくなることは、生活ルールを生命線とするシェアハウスで実証済みだ。
この賃貸管理も最も古くからある業務だが、法律でそれが明確に位置付けられたのは賃貸住宅管理業法(賃管法)が20年6月に施行されたときからである。
ちなみに不動産業に関係する法律はいくつもあるが、不動産業そのものを定義した法律はない。宅建業法は不動取引について定義しているが、取引業が不動産業のすべてではない。そうした中、賃管法は01年8月に施行されたマンション管理適正化法以来の業法となる。まさに今後は〝管理業〟が不動産業の華なのか。
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4部門を統合する法律はないが、不動業界が国民から信頼される業界になるための黄金律は一つしかない。それは、法律に頼るのではなく国民さらには国にとっても重要な基盤となる不動産という仕事に携わる者の矜持(きょうじ)として、この国を光輝く豊かな国にするという高い志を持つことである。中でもプロではない個人(クライアント)を相手にする取引には不動産のプロフェッショナルとして最大の誠意を見せてもらいたい。