JR蒲田駅から京急蒲田駅に続く中央通りにある「スズコウ」が、以前から気になっていた。先日、あるツアーに参加した仲間たちとの懇親会をこの店で開き、初めてこの店に入った。赤提灯「鳥いわし」の通り、鰯料理と焼鳥の店だ。昭和44年の創業である。壁には「いわしの詩」が掛かる。「いわしには脳血栓の血管のつまる予防になるエイコサペンタエン酸を多く含んでいて血栓溶解作用をする健康食品です。いわしを食べて健康人生。お客様各位」(店主)とある。
この店の鰯料理は最高だった。注文を受けてから捌ばくといういわし刺身、いわし味噌たたきはまさに絶品。味噌たたきは、いわしの姿に盛りつけられている。出汁に醤油にいわしを漬込み揚げた竜田揚げ、白胡麻を絡めた胡麻揚げ、梅と紫蘇を巻いた香揚げ、これら3品を一皿で味わえる「いわし揚げ盛り」を頼む。頭から骨まで丸ごと食べられるから栄養満点だ。刺身で出されたいわしも唐揚げにしてくれた。様々な調理法で提供される鰯料理は20種ほどだが、これほどに工夫に富んだいわし料理は初めてだった。日本酒、とりわけ燗酒に合うことは間違いない。いわしの煮付け、いわし辛し酢味噌、いわし茶漬けも美味いらしい。
店主で料理長の鈴木登志正さんは、元々横浜の精養軒で洋食を修行後、同じく精養軒で修業した兄と弟と、昭和39年に洋食「グリルスズコウ」を開店させたという。店主はその後に和食に転向、鳥料理をメインに据えた割烹料理屋を開いた。今は大衆的ないわし料理の店になったが、持ち前の研究熱心さで様々なメニューを開発してきたという。見事ないわし料理のバリエーションは、その熱量と向上心の賜だろう。いい店に出会った。(似内志朗)