総合

不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編(68) ~畑中学 取引実践ポイント~ 判例・トラブル集を読み思う「善管注意義務は不動産取引の要点」

 売買当事者が不利益を被らないように、「その内容で取引を行って媒介契約における善管注意義務違反とならないか?」を確認しつつ進めていくことが、不動産取引かつ調査の基本だと2025年始めに改めて思ったことだ。

 年末年始に複数の不動産取引の判例・トラブル集を読んだのだが、「これはセーフでは?」「いや、この判決は不動産会社に厳しいな」というのは、ほぼ善管注意義務違反(=重説違反になる)によるものだった。

 他は「これはアウトでしょう」と分かりやすい。昔から同じ結論になるが「善管注意義務が取引上の要点」と改めて思った次第だ。ただ、善菅注意義務は定義が抽象的で、どこまでが宅地建物取引士の責任となるのか、その範囲が不明瞭で分かりづらい。そのことから一人ひとり、その判断基準を持っていかないといけないのだろう。筆者は「専門性が低く」「誰でも調査でき」「買主の購入判断に影響すること」これら全ては調査し伝えることが判断基準と考えている。

 判例集の事例にはこのようなものもあった。半地下にある駐車場の浸水状況に買主が不安を感じ、担当者に調査を依頼してきた。担当者は役所から「街区には浸水履歴はあるが、対象不動産については個人情報があるので開示請求後に公開」としてきた。そこで宅建業者である売主にヒアリングしたところ「過去に浸水なし」ということであったという事例。そこで担当者が選んだのは開示請求をせず調査は終了だった。開示請求自体は手続きや費用、労力はそこまでかからない。ただ、一般的に数週間ほど資料公開まで時間がかかるので、売買契約がすぐ結べないのを忌避したのだと思われる。何かあれば責任が重くなる宅建業者の売主が「過去に浸水なし=大丈夫」と言っているのだから問題ないだろう、そう判断した可能性もある。

 ただし、結果は開示請求すれば対象不動産に浸水被害があった資料を確認ができたというもの。買主が購入後に浸水被害に遭い、対応策を講じて費用がかかったので裁判沙汰になり、この開示請求の内容が発覚したわけだ。そのため浸水対策費用の一部を不動産会社が負担する判決となってしまった。開示請求の調査を行わなかった責任は当然あるが、宅建業者でも売主から大丈夫と言われてもなお開示請求の委任状を下さいと言えるのかを考えると気の毒なような気もする。不動産会社は売買当事者の言うことを鵜吞みにせず「独自で調査し結果を伝える」基本を改めて判断されたと言える。

 もし、開示請求の手続きが煩雑で分かりづらかったり、費用が高額、売主から拒否されたりすれば異なる結果になったかもしれない。

 善管注意義務は自分が売買当事者だったら当然に行うことも判断される。迷ったら「自分が買うならどこまで調査をするのか」その観点で考えても良いのかもしれない。

【プロフィール】

 はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。

 2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。