米国・トランプ大統領は、就任早々に多数の大統領令に署名した。世界保健機関(WHO)からの脱退など世界的な影響の拡大が必須な状況になった。連邦政府機関に政治任用区分を設け、気に入らない人材は解雇し〝イエスマン〟をそろえる。そこには権力の実行を盤石にする気概が感じられる。
▼権力に従順で盲目的に〝ゴマすり〟をする者は古来、絶滅せずに生き残ってのさばり、不当に職や地位を得ている。元・国民的アイドルや企業の社員が、女性をモノ扱いする〝性接待〟に関与したとされる一連の報道を見ても、いかに組織や企業を腐らせていくのかは論を待たない。
▼今回署名された大統領令は幅広い。21年の連邦議会襲撃事件の実行者に恩赦を与える。AI(人工知能)規制撤廃、政府機関のテレワーク禁止、EV(電気自動車)普及廃止など、独裁者ともいえるような蛮行は、注目を集めている。パリ協定(気候変動抑制の多国間合意)からの離脱は、脱炭素経営を推進する日本企業への影響が小さくない。
▼近世スペインの小説家セルバンテンスが書いた小説の主人公、憂い顔の騎士ドン・キホーテは、魔法にかけられた巨人であるとして、風車や水車小屋に突進した。従士のサンチョ・パンサは、毛布で飛ばされ、殴打も受けて散々な目に合う。ただ、物語の最後に主人公は正気に戻る。米国は果たして、正気に戻るのか。本当に憂いているのは、世界の人々である。