発足して今年3年目を迎える一般財団法人ひと・住文化研究所(鈴木静雄代表)は近く、書籍第2弾を発刊する。題名は『思想なき住まいが日本を滅ぼす(仮称)』(プラチナ出版)と過激だ。執筆は鈴木代表のほか文明批評家の船瀬俊介氏と筆者の3名が担当。リブラン創業者の鈴木氏は従来から不動産業界に対する歯に衣着せぬ言動が有名だが、船瀬氏は主に建築業界への鋭い批評で知られる人物である。『コンクリート住宅は9年早死にする』(リヨン社)、『あぶない電磁波』(三一書房)、『あなたもできる自然住宅』(築地書館)などの著書がある。
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船瀬氏は発刊予定の『思想なき…』でも「日本建築を堕落させた10大元凶」「10軒に9軒以上が〝ビニールハウス〟」「コンクリート校舎は地獄」など従来から普通に使われてきた建築資材のリスクについて警鐘を鳴らす。その狙いは日本の住宅ユーザーに正しい建築知識を持ってもらい、無垢材や漆喰など天然素材の有効性を知ってもらうことにある。
「木造ビルは世界の巨大潮流」「森林は宝の山だ!「日本は森林作業でよみがえる」「漆喰で呼吸疾患の7割が改善する」などの項目が後半に並ぶ。日本の住宅ユーザーが建築知識に疎いのは事実だろう。なにしろ、大学の建築学科でさえ、巨大なコンクリート建造物の設計を学ぶコースがメジャーで、木造戸建て住宅について学ぶ学生は少ないという。
文化の違い
同じ木造住宅でも2×4(ツーバイフィー)工法と在来軸組工法とではその特性に大きな違いがあることを知らなくても、一生に一度の高額な買い物ができるのはなぜか。それは日本人の多くが住宅については新築志向でテレビ・コマーシャルを流しているような会社の商品であれば大丈夫だろうと思っているからだと思われる。
それに対してアメリカは既存住宅が住宅市場の8割以上を占めるから、住宅ユーザーは購入しようと思う住宅の品質についてはインスペクションなどを利用して自分で調べること(自己責任)が当たり前となっている。また、住宅を選ぶ一つの判断基準として、そもそも長く住宅として存在していることはその耐久性が実証されているということだから、築年数が古いことは高い評価にもなっている。住文化の日本とアメリカとの何と大きな違いだろうか。
「ひと」ありき
鈴木代表は言う。
「まず、ひとがいる。そして住まいがある。その逆ではない。ひとは何を暮らしに求めているのか。この場所にどんな住まいを建てればそれが叶うのか。少なくとも事業者がそうした思考を持てば住文化も育つ」。
ひと・住文化研の活動はまだ緒に就いたばかりだが、その使命は住宅を求める人々がその感性を磨き、理想とする暮らしとの齟齬(そご)がないような住まい選びができる業界にしていくことにあるのだと思う。今やハウス業界はスマートハウス化が主戦場となっている。IoT、ホームネットワーク、スマートスピーカー、ZEH設備、防犯セキュリティシステムなどだ。しかし、いくら設備が完璧でも〝仏作って魂入れず〟ではないが、肝心の暮らしを楽しむソフトがなければ台無しだ。
暮らしを楽しむソフトは人の価値観によって様々で、見たり触ったりすることができない。唯一、感じ取るものと言うしかない。だからそこに事業者と住み手との共感が生まれる。
「誰にとっても魅力的と思える住まいは、今や誰にとっても魅力のない住まいになりつつある」と鈴木代表は言う。ひとや住文化を研究するところから住まいのあり方を模索する企業はまだまだ少ない。しかし、生成AIの技術革新が進むこれからの時代、最大のテーマは「人間とは何か」である。ひと・住文化研の役割は今後ますます大きくなっていくものと思われる。