高円寺はちょっとアナーキーで魅力的な街だ。個性的な酒場も多い。その一つが駅から徒歩5分ほどの「一徳」である。狭い店だがコの字カウンターに12席、厨房では大柄で丸刈りの大将(山下さん)がワンオペで忙しく働く。道路にはみ出たビールケースを積み上げた仮設のテーブル席や、通りを挟んだ分店にも料理を運ばなければならないから大変だ。ここでは店主と常連客は阿吽の呼吸である。忙しい店主に代わって、常連が初めての慣れない客に、お薦めを親切に教えていた。
強めの炭火で焼く焼鳥台が、厨房の中心に置かれている。今夜はサッポロ赤星と立山本醸造、料理は茄子煮浸し・菠薐草・もつ焼き5本・締めはナポリタンを頼んだ。酒も料理も美味くリーズナブルな価格設定が嬉しい。メニューには赤星の他、キリンラガー・酎ハイ・ウイスキー、酒も立山の他、高清水・大和川・菊正宗・八海山など一通り揃っている。串は、レバー・たん・はつ・かしら・なんこつ・大腸・テッポウ・ヒラ・ひぞう・コブクロ・ガツ・砂肝が一串80円から。一品料理は、煮込み・一徳豆腐・新ジャガ明太サラダ・地鶏モモステーキ・冷奴・おひたしなどが200~400円、各種刺身は400~600円と安い。
西荻窪で老舗酒場の店長だった大将は、23年前にこの場所に店を構えて以来、この店を人気店に育て上げた。ダンディで俳優のような存在感があるが、「一徳バンド」のボーカルで、時々ライブもやるらしい(壁にはライブのポスターが張ってある)。もうもうと煙立つ店にはJAZZが流れ、その中心に大将が立つ。勤め人・ミュージシャン・作家らしき人など店に集まる客は多様だが、みな店と大将への愛情は半端でない。(似内志朗)