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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇164 コンサルと不動産鑑定 連携強化に活路か 難解な〝最適解〟

不動産コンサルティングと鑑定はどう違うのか。どちらも依頼を受けた対象土地で最有効使用を見つける仕事だ。しかし昨今は産業構造の転換、IoT技術の進化とスピードの速さ、環境意識の高まり、更には建築費の高騰も加わって、土地活用の〝最適解〟を見出す作業が困難さを増している。

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 近年、ディベロッパーは郊外の土地に物流倉庫やデータセンターなど最先端の大型施設を開発するケースが増えている。物流施設にはようやく過剰感が出始めているが、データセンターは今後も大いなる有望市場だ。ただ、不動産鑑定士がその土地の立地特性を見て「この土地の最有効使用はデータセンターです」と言い切るのは難しい。データセンターには建物容積に見合った電力とグリッド、通信ネットワークとコンピューティングの処理内容など従来の鑑定にはなかった要素が複雑に絡み合っているからだ。

 一方、土地所有者から活用方法を相談される不動産コンサルタントも同様だ。人口集中が続く都会の中心エリアなら従来通り住宅や商業施設の提案が可能だが、郊外や地方都市での広大な土地活用となると難しい。特に土地を賃貸する場合には借り手の事業の将来性が重要となる。人口集中地と違って住宅や商業店舗が難しいとなれば、物流倉庫や人工野菜工場、再生エネルギー関連などが考えられるが、それら事業は将来性の見極めが難しい。しかし、逆に言うと、そうした難しい土地の再生こそが地方創生を掲げる日本には求められている。

明らかな違い

 コンサルと鑑定の違いは前者が対象土地の活用方法をその立地特性だけで見るのではなく依頼者の思いやこだわりも加味して判断するのに対し、後者はあくまでも最有効使用を前提に合理的市場のもとで形成されるべき市場価値を客観的に表示するものである。ただし、両者ともそれは現時点での判断であり、将来も成立する売買価格や賃料などの収益を保証するものでないことは共通している。だから「その本質において両者に大きな違いはない」という見方が存在するかも知れないが、コンサルのほうがより人間的で、依頼者との個人的信頼関係をベースにしていることは確かだろう。

 それにしても今後は世界の産業構造が、進化し続けるデジタル技術を中心に大きく転換していくことは明らかだから、不動産の価値や活用方法を現時点での観測やデータ分析力だけに頼ることの危うさは否定しがたい。

 特に昨今は政府が自国の特定産業に巨大な金額を投資して世界制覇を狙うような動きも活発化している。さらにそれに対抗する他国の動きもある。そうした混沌化する世界情勢の中で不動産の評価基準を従来型の原価法や取引事例比較法、DCF法などにおけばいいのかは極めて疑問である。

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 昨今、土地の将来価値を見極め難くしている事情はほかにもある。それはそもそも土地の価値はそれを利用したいと思う人や企業によって大きく差が出るということだ。その典型例が台湾の半導体製造工場TSMCで賑わう熊本県菊陽町にある。

 同町では今、関連する企業の事務所や倉庫、住宅などへの土地需要が高まっていて土地争奪戦が展開されている。この機を逃さず土地を提供したいという地主は多いが、海外勢も含めた需要が一気に集中したことで土地や地代が急騰し適正価格を見いだすことが難しい状況が続いている。

 それでも冷静に客観的評価を示す鑑定と、依頼者の心理的ニーズにまで踏み込むコンサルティングが連携を強化することしか、この難局を乗り切る術はないようにも思える。産業構造の転換や科学技術変革の方向性を見誤れば依頼者に大きな損失を与えかねない。今後の土地活用にはそうしたリスクをどこまで担保すればいいのかという難題も待ち受けている。