住友林業の家(木造)は耐震等級3である。等級3は建築基準法が義務付ける「等級1」の1.5倍の強度がある。つまり、世にごまんとある耐震等級1のRC造のビルよりもはるかに強い。
同社の光吉敏郎社長は「そもそも建物の強度と材質は関係ない」と話す。しかし、日本ではコンクリート造は木造よりも頑丈という観念が定着している。それについて光吉氏は「伊勢湾台風(昭和34年)で5000棟以上の木造住宅が倒壊・流出し、その後の建基法改正で公共建築物にはより強固な構造が必要ということになって、RCやS(鉄骨)造で建てられるようになっていったことが大きい」と指摘する。
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しかし、近年そのコンクリート信仰にも変化の兆しがみえはじめた。昭和30年代と比べれば強度もデザイン性もはるかに進化した木造建築物を見直す機運である。それを後押ししているのが政府の動きだ。21年には「公共建築物等木材利用促進法」が改正され対象が公共建築物から一般建築物に拡大された。
法律の名称も「脱炭素社会の実現に資するための木材利用促進法」に改められた。22年には建基法が一部改正され、木材の耐火性能基準が合理化された。更に28年を目途に建築物がライフサイクルを通して発生するカーボン(CO2)量の表示が義務化されることも決まっている。
つまり、木造建築物推進の流れは、明らかに2050年の「カーボンニュートラル」達成に向けた動きとなりつつある。その背景にはRCや鉄骨造よりも木造のほうが建築過程のCO2排出量が少なく、建築後も木材が持つCO2の閉じ込め効果で環境面での優位性が明確になってきたことがある。しかし、環境にやさしいというだけで木造建築は普及するだろうか。何かが欠けている。
健康と癒し
木造の健康と癒し効果も見逃せない。インフルエンザによる学級閉鎖の発生率がRC造校舎では約20%なのに対し、木造校舎では約10%に半減するというデータがある。木造校舎だと冬の底冷えがなく子供たちの体力が温存されるからという説が有力だ。「木は天然の断熱材」(BESSパンフレット)と言われるぐらい断熱性能が高い。
信田聡氏著の「木と健康」などの文献によれば、材料別の熱伝導率はコンクリートの1.60に対しヒノキやスギは0.07と23分の1である。さらにヒノキや杉の香りには抗菌・リラックス効果もある。木は調湿機能もあるのでカビやダニの発生を抑えアレルギー対策にもなる。
このように多くのメリットがある「木」だが、日本の非住宅建物における木造化率はわずか8%だ(国交省22年建築着工統計床面積ベース)。RCやS造のビルで埋め尽くされた都会はまさにコンクリートジャングル。そのあまりの息苦しさに近年の大型ビルの周囲には豊富な樹木と灌木による植栽が施され、公開空地を活用した遊歩道などが目立つ。
木造の中層ビルやマンションが建てられ始めたのも、砂漠化した都会に生きる現代人が心の癒し(オアシス)を求め始めたからではないか。22年に大林組は横浜市に日本初の高層純木造ビル(地上11階建て、高さ44メートル)を建設した。三井不動産は24年1月に国内最大・最高層、地上18階建・高さ84メートルの木造賃貸オフィスビルに着工、26年に竣工する。「日本橋に森をつくる」がコンセプトだ。今年度は日本橋に2棟目となる木造の賃貸オフィスビル(地上11階建て、高さ56メートル)も着工する。極めつけは住友林業が18年に発表した壮大な計画。創業350年となる41年に地上350メートル、70階建ての超高層木造ビルディングをつくるというものだ。
サステナブルな街づくりの象徴ともなってきたこの〝緑の森〟構想こそ現代都市に残された、そして閉塞社会を生きる現代人に残された最後の〝夢〟である。