「AIの未来を考えることは、人間の未来を考えること」と痛切に思わせるセミナーが7月23日、東京・西新宿のNSビルで開かれた。主催は不動産流通プロフェッショナル協会(FRP、真鍋茂彦代表)だ。
FRPは21年春に設立したばかりのまだ新しい団体。冒頭あいさつした真鍋代表は「この会はどうしたら不動産業界がいい業界になるかをプレーヤー自身が考えるために発足した。今はまだ、そういう我々の存在をどうすれば社会に認知してもらえるのか、また、これからの若い世代に我々の思いをどう伝承していけばいいのかを模索している段階だが、本日の講座はそうした業界の未来を考えるうえでも大変刺激的な内容になると思う」と自信を見せた。
「第3回未来講座」と銘打ったセミナーに登壇したのはGOGEN(株)代表取締役CEOの和田浩明氏。同社は不動産売買に関わる複雑で煩雑な手続きをデジタル化することで効率性を高め、浮いた時間をより大切な人と人とのコミュニケーションに充てることで、不動産売買に関わる全ての人たち(エンドユーザー、不動産業者、金融機関など)に〝新たな体験〟を提供するプラットホームを創出している会社である。
和田氏は講演の中で、重要事項をAIに説明させる(ユーザーからの質問にも対応)技術も既に完成していることや、ユーザーとの会話をあらゆる局面で録音し、それを自動文字起こしする機能を業務に生かす方法などについて分かりやすく語った。AI宅建士やAIエージェントが出現する可能性などについても指摘した。
AIの能力が事務的には人間をはるかに上回り、思考力においても人間とほぼ同等になりつつある今、AIがいずれは人間から多くの仕事を奪っていくことは間違いない。それに対して、今はまだ多くの人たちが「人間にしかできないことが必ずある」と楽観的だ。しかし、本当にそうだろうか。
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人間とは何か、人間にしかできないこととは何かの研究が、AIの研究に先行して進んでいるようには見えない。そこに人類の油断がある。同講座のモデレーターを務めた(株)K-コンサルティング代表取締役の大澤健司氏は、人間にしかできないことについて「それは、人に教えることではないか」と話す。教えるといっても小学校の先生が生徒に知識を与えるというようなことではなく、何かを体得させること。同社の業務で言えば、大澤氏が社員にコンサルティングの効果的進め方を教えるときのように、言葉では表現しにくい極意を伝授するといったことである。
確かにそうだ。例えばAIが茶道の先生になれるとは思えないし、AIに学びたいとも思わないだろう。つまり、人間にしかできないこととは「人間が人間に人間として向き合うこと」と言えるのではないか。
ただ、問題は今の人間が他者に対する関心を失いつつあることである。その要因は現代人が情報の選り好みに忙しく、他者を思いやる感性が劣化していることにある。
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今こそ、AIの進化は必然でも人間の進化は約束されているものではなく、むしろ劣化することもありうることに留意すべきだ。では、その人間の劣化とは何か。それは進化する機械文明のなかで利便性や効率性ばかりを求めていけば、人間の本能や感性が鈍化していくということである。
もし人間(例えば日本人)が進化していたなら、〝人生100年時代〟を迎えた今をもっと楽しい、不安のない社会にすることができていたと思う。高齢化問題を所詮は他人事としかとらえることが出来なかった感性の劣化が招いたことである。
シンギュラリティー(AIが人間の知能を超える日)を目前にした今こそ、人間の未来について考えたい。人間の進化は社会の進化であり、社会の進化が明るい未来につながっていくからである。