2030年には全ての団塊世代(1947年~1949年生まれ)が81歳以上となり、男性は平均寿命に達する。したがって30年代は〝大量相続時代〟となって、大量の空き家が市場に放出されるため、住宅価格が大幅に下落するという見方がある。確かに30年代後半には女性も平均寿命(87歳)に達するので夫婦共に亡くなれば、その可能性は大きい。現在、住宅価格が高過ぎて買えない人たちには30年代まで待ってみるのも一つの選択となる。
団塊世代の現在の生存者数は年齢がすでに76歳から78歳になっていることから出生時の806万人に対し、現時点では400万人から600万人程度になっているのではとの推測がある。今後の空き家発生規模は決して小さくはない。
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25年4月10日、日経新聞朝刊に「中古マンション、高所得でも夢幻――23区、5年で6割高に」という衝撃的記事が載った。それによると現在、東京23区内には年収500万円の世帯が買える中古マンションはなく、750万円になってようやく足立区と江戸川区で購入可能になるという。年収500万~600万円程度では23区内には住めない時代になったという。
ちなみに1000万円世帯でも買えるのは北、板橋、練馬、葛飾の4区しかないというから、いやはや、もう何をかいわんやである。
80年代後半から90年代初頭にかけて発生したバブルの時には「土地は誰のものか」という特番をNHKが5夜連続で放送するほど大きな社会問題になったが、今回は水を打ったように静かである。
その原因は国民の間から〝1億総中流〟という意識が消え、所得や資産格差は仕方ないという諦めが広まったからと思われる。日本人には「全ては自己責任」という強い精神性があるので、どんな現象や変化もおとなしく受け入れる素養がある。
今がチャンス
記事に戻ると、足立区と江戸川区の不動産会社は逆に今がチャンスである。どうしても23区内に住みたい人たちにとっては注目のエリアとなる。古いマンションを安く買い取って、リノベーションでバリューアップを図れば人気物件となる可能性が高い。個人間の仲介には双方にエージェントを立てる米国方式を打ち出すのも面白い。本格的人口減少時代には都市間での人口争奪戦が激化し、同じ23区内でも人口の奪い合いが始まる。不動産会社にとっては最も知恵の出し甲斐がある時代となる。
目指せパートナー
不安で不透明な時代だけに、顧客の資産形成に生涯にわたってのパートナーとなるチャンスである。ただし、今はやりの「顧客に寄り添う」という標語はもはや死語に近い。あらゆる企業が使い始めたから差別化にもならない。むしろ「顧客の目を覚ます」ぐらいの強気の姿勢が重要だ。今や、多くの国民がこの先行き不透明な時代に怯え、人生を豊かに生きる指針を見出せずにいるからだ。相続、空き家の処理、資産形成(不動産投資)などに関する相談ニーズがたまっているのに、気軽な相談相手がどこにもいない。
「寄り添う」のではなく、宅建士たる者、国民を正しく導く気構えをもつべきだろう。従来は顧客にどうしたら買わせることが出来るかばかりを考えてきた。しかし、これからは個々の顧客ニーズを把握し、「最適解」を見出し、自信をもって誘導する営業が真の力を発揮する。
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大量相続時代は不動産会社への相談依頼が殺到する時代にしなければならない。つまり、30年代は仲介市場や買い取り再販の現場で働く不動産営業マンにとっては厳しい競争の時代でもあるが、コンサルティングを含むあらゆるスキルを発揮する大舞台ともなる時代である。そのスキルを磨く時間はあと5年しかない。今こそ、自身の価値をバリューアップするときである。