都は、先ごろ「東京緊急対策2011」を発表した。今回の東日本大震災から将来を見据え、東京の都市力を高めるために取り組むべき施策をまとめたものだ。
これまでも災害に備えて対策をとってきているが、首都直下地震の発生確率は30年以内に70%と高い。万一、発生した場合の被害は甚大だ。内閣府が発表した東日本大震災の被害は16〜25兆円とされているが、首都直下地震が発生した際の被害はケタ違いに大きく、中央防災会議では112兆円としているのだから、対策は喫緊を要する。
■個人の建て替えにも補助を
「東京緊急対策2011」では、建築物・施設の耐震化や液状化対策、津波・高潮対策等々をあげており、1300億円規模の補正予算を組み、17日から始まった6月都議会にはかっている。このうち優先順位をつけるとしたら、木造密集地域の防火対策ではないか。
都は、防災都市づくりのための重点整備地区として、すでに11地域約2400ヘクタールを指定している。これらの地域は、18年度での不燃領域が44〜64%にとどまっている。
たとえば指定地域のひとつである「林試の森周辺・荏原地区」は、品川区側で53%、目黒区側で59%が不燃領域だ。ここには合わせて13万6700人が住んでいる。ここを不燃化するのに27年度で60〜65%を目標にしている。
なかなか進まないのは、その手法が限られているからだ。国や自治体が補助金を出して、住民に耐火性を高めてもらうしかないのだが、個人が単独で実施するものには補助金は出ない。複数による共同建て替えが条件で、補助金の対象になるのは、その共同施設の整備費という制約がある。
簡単にいえば、個人が老朽木造住宅を鉄筋コンクリート住宅などの防火性の高い住宅に建て替えても、まったく補助金は出ない。個人の資産に援助できないというのが、その理由だ。
だが掲げている目的が、防災都市づくりであるのだから、こうした場合も多少のインセンティブを与えてもいいのではないか。住宅エコポイントなどより、最優先で手当てすべきだ。また老朽木造住宅の住民が、高齢者の独り暮らしに多いことも予想され、資金面だけでなく、マンパワーといったサポートも求められる。
■密集地には土地収用で
こうした対策をとってきても、住宅の防災への転換は個人任せに過ぎない。そこで強制力も考えなければならない時が来ているのではないか。都市計画道路の拡幅では、買収により立ち退きを要請しており、進捗率の判断によっては土地収用法を適用している。
地域を限ってモデル地区を指定して、土地収用法で立ち退きを迫り、防災都市とする、安全のため私権を制限することもやむを得ない。災害が発生してからの復旧コストよりも、事前に対策をとるコストのほうが、どう見積もっても低い。