■最初は住むための物件として購入
HomeAwayを利用してバケーションレンタルを手掛けているパトリック&明子・オシュネー夫妻は、現在フランスの家に加えて、京都市内に京町家8物件を所有。主にヨーロッパからの訪日観光客を受け入れており、日本の古民家で伝統に触れながら休暇を楽しみたいという家族連れから人気を得ている。
民泊運営を始めたきっかけは、もともと日本・フランスの2拠点生活を行う夫妻が、セカンドハウス購入のために物件を探していたこと。当初は首都圏を中心に物件を探していたが、フランス人のパトリックさんが「せっかくなら京都のような伝統ある町にも住んでみたいね」と提案。そこで京都市内で物件を探し始め、格安の町家物件に巡り合ったという。「あくまでも生活拠点として購入したので、民泊の発想は全くなかった」という明子さんだったが、すでにフランスの自宅をバケーションレンタルしていたことから、その経験を生かして日本でもやってみることにした。
■経験を通じてつかんだコツ
バケーションレンタル物件として展開している京町家は、小さいタイプで4人、大きくて最大14人と、対応人数がそれぞれ異なる。京都で本格的に事業を展開した5年前は、競合物件が少なかったこともあり稼働率は90%だったが、最近はホテル・旅館が急増し、中には1人当たり1泊3,000円で宿泊できるようなプチホテルも登場したことから、現在は平均70%ぐらいだという。とはいえ、民泊新法以前に許可を得た「簡易宿所」であるため、「(180日の縛りがなく)採算としては合っている」という。
最初の物件は600万円で購入し、1,000万円かけて改修したが、住まいとして購入したという経緯もあり「特に利回りを考えず、採算に見合わない時期もあった」と、スタート時はかなり苦労したようだ。
また物件を増やしていく中で、京都の“夏暑く、冬寒い”という盆地気候への対応にも苦心。「とにかく冬の寒さが尋常じゃなく、とても訪日外国人は耐えられないだろうと感じた」と、明子さんは振り返る。地元の人間であれば、極端な寒暖差や木造古民家の隙間風や底冷えに慣れていても、旅行者にとっては快適とはいえない。「短期滞在であれば、それも町家のだいご味と考えられるかもしれないが、長期滞在の場合、宿泊場所は自宅と同じ。室内環境の快適性は重要」とし、床暖房やラジエーターの導入、各居室にエアコンを設置するなど、室内環境を整えることを最優先。結果的に、安く購入したとしても冷暖房設備の導入で4,500万円ぐらいかけた物件もあるという。
■ターゲットを明確にすることがポイント
それでも採算が合う理由は、滞在期間が長い傾向があるヨーロッパからの旅行客をターゲットにしている点だ。オシュネー夫妻の場合、バケーションレンタルに出しているフランスの家を利用する旅行客の大半が4人以上の家族連れで、短くても10日以上の滞在が多いということを把握していたことから、京都という立地に加え、4人以上で泊まれるような物件を選んで購入してきた。宿泊条件も1週間以上で、宿泊費は2.5万~3万円の設定だが、4人以上であれば1人当たりの宿泊費用が予算内に収まるような設定のため、差別化できるという。
また、ヨーロッパからの旅行客には長期休暇の習慣が定着しているため、滞在期間中の掃除・洗濯も自分達で行うことが多く、ホテルライクな接客を好む短期滞在ユーザーと比べて「メンテナンスの回数が大幅に軽減でき、クレームも少ない」とのメリットも。そういった特性を考慮し、食洗機や乾燥機能付き洗濯機などの家電類の設置は必須条件と位置付けている。
さらに、計画・予算立ても1年以上前から始めることが多いことから、半年前には予約が入るという点も、効率的な運営につながっているようだ。
■物件・ターゲットに応じたサイト選びを
現在、オシュネー夫妻が登録先として利用しているサイトは、HomeAwayを含めて3カ所。自分達のWebサイトも持っているが、やはり効率的な予約獲得のためには複数サイトへの登録は不可欠だという。
ただ、短期滞在で安い宿泊先を探す人が多かったり、長期滞在傾向が強かったりと、サイトによって特徴が異なるため、明子さんは「物件の特徴やターゲットに応じたサイト選びが大切」と指摘する。HomeAwayについては、欧米市場におけるバケーションレンタルの実績に加え、フランスの物件からの付き合いを通じて「地域特性を生かしていこうという運営会社の姿勢を感じられることが、ビジネスパートナーとして信頼できる」。息の長いビジネスとして続けていくためには、二人三脚で伴走してくれるパートナーの存在が欠かせないということだろう。
■健全な民泊市場の成長に期待
訪日外国人の増加は、2020年の東京五輪・パラリンピック以降も続くと見込まれており、その受け皿の1つとなる民泊需要も落ち込むことはないと指摘されている。同夫妻も、京都だけでなく三重や金沢など、日本の伝統文化を感じることができる地方都市での可能性を感じているようだ。
一方で、2018年6月施行の民泊新法や、京都市などの観光地や都市部自治体における規制強化などの影響が、民泊市場の成長を鈍化させているとの懸念もある。実際に、オシュネー夫妻の所有物件がある京都市では、施行後に違法民泊物件を含め小委規模な登録宿所が減少しており、稼働率低下により銀行からの借入金返済が厳しいオーナーもいるという。
しかし、明子さんは「競合が多い少人数・短期滞在ではなく、4人以上・長期滞在にターゲットを絞り、受け入れ人数が多くても対応可能な物件を選べば、ビジネスチャンスはあると思います」と話す。特にヨーロッパからの旅行客は、バス・トイレが複数あることを検索条件に入れることが多く、水回り設備が充実していると宿泊価格が高めでも予約する確率が高いという。こういった条件を満たせば、「アパート・マンション投資と比べても、民泊の収益率は高く、まだまだ伸びしろがある」と期待を寄せる。「何よりも旅行者目線で取り組むことが大切。そうすれば、日本でも健全な民泊市場が形成されると思います」。
パトリック&明子・オシュネー夫妻
ソフトウェア会社を経営後、5年前からバケーションレンタル事業を本格的にスタート。現在はバケーションレンタルに関わるWEB制作から広報業務、ゲストへのコンシェルジュ業務まで、町家運営すべてに携わる。日仏2拠点居住を楽しみながら、パトリックさんはカメラマンとしても活動中。