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前田武志・国土交通大臣と政策を語る 第3回 森ビル会長・森稔氏②

前田大臣 そこで、国交省も政策の方針を切り換え、医職住の近接とか地域の集約を進めようとしているわけです。例えば、東北で復興を果たしても、10年経ったら「高齢化が進んで街がもたない」ではダメなのです。職を含めて、継続する街に、住んでいる人はその街で死ぬまでケアをしてもらえるようでないと。厚生労働省が「地域包括ケア」という政策を打ち出していますが、国交省としても、これからの住宅・街づくり政策はそれと連携してやろうと考えています。東京都はこれから高齢化が最も進むわけですから、大都市でもそうした考えが必要です。

■国際化のキーワード

森会長 今の時代、グローバル化は避けられないと思います。車や飛行機、建築物にしても、世界的に分業化が進んでいることのほかに、企業も「日本だけのマーケットでは狭い、アジアなら40億人もいる」と、市場を求めて否応なく世界に出ていくわけです。そこで問題になってくるのが、国際都市間競争の中でどこが世界の中心になるか。カネも知恵も情報も集まるグローバル企業のヘッドクォーターがどこに置かれるかということです。

 少子高齢化で日本人の人口は減っていますが、この5年間で逆に日本に住んでいる人は微増しています。東京はかなり増えている、つまり海外から人が入ることで、都市間競争になんとか踏ん張ってついていっている状況です。これが今後の政策としても非常に重要な視点だと思います。

 今や、本格的な大都市間競争が始まっています。この競争に負けると、空洞化はどんどん進み、就業の機会も減る。仮に日本の中での地域間競争に勝っても、世界との競争に負けてしまったら、世界の田舎、地方都市になってしまうわけですから、絶対に負けるわけにはいかないのです。

 勝つためには、グローバルスタンダードの生活、仕事ができるとか、安全性が保たれるということが非常に大事です。国際戦略総合特区では、まさにグローバルなレベルでの自由度を得るために、各省庁の垣根を越えてワンストップで様々なことにチャレンジする、だからこその特区であり、単なる規制緩和ではなく規制改革が必要です。

 もう一つ重要なのはスピードです。上海は17年で世界一の金融都市をつくりました。その街区には40階建て以下のビルはありません。マーケットはまだ国際的に十分に開いていないのに、すでに世界の金融機関のほとんどが集まっています。

 私は、都市再生こそが日本を救うと確信しています。都市の骨格はもちろん、法人税・所得税などの税負担の緩和、金融面の政府保証など、民間を生かし、海外から人や投資を引きつける政策が必要です。都市政策関連の法制度も整った今、12年は都市再生に向けて本格的に動き出す年と大いに期待しています。

前田大臣 日本のバブル期はアジアがまだテイクオフする前で、カネも人も情報も自然と東京に集まる時代でした。安住していたら、いつの間にか中国がきていたということでしょう。対策としては、対外的に日本の魅力を戦略的に打ち出していくこと。先端産業のノウハウ、テクノロジー、科学技術という分野は常に世界と交流をしていて、ノーベル賞も毎年受賞者が出るわけですから。それを行政もビジネス界も支援する、国際交流につながるものを大事にしていかなければならない。

 例えば、研究学園都市。それをどれだけ戦略的に支援、活用しているかというと、実はそうなっていません。つくばも八王子も、関西では「京阪奈」も堺も。すばらしい成果を上げ、世界から学者や研究者がたくさん来ているのに、週末は何のイベントもないのが実情です。シンポジウムなどを行ったらいいのに、自治体も産業界もやらない。例えば、海外の研究者たちに先端都市・東京を見せると、それは世界に発信する一つのメディアになります。

 日本に来た人たちは、それぞれの国の先端の知能ですから。東京は世界に最も開かれた都市です。国際戦略の面でも、東京が「おもてなしの気持ち」を発揮して、日本を引っ張っていってもらうことが重要です。世界から留学や研修などで来てくれる若者などを大事にしていく、そうした気持ちで対応することが大切だと思います。