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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇127 「目的なし空き家」を防止 築年評価からの脱却で THKシステム、普及策検討

 隣家が空き家になった。我が家よりも敷地はかなり広く、建物もがっしりしている。一人暮らしをしていた高齢の女性が施設に移って1年近くになるが、売りに出すとか、人に貸すとか、何の動きも見られない。もちろん事情は分からないが、流通市場が確立しているアメリカなら、すぐにでも〝For Sale〟の看板が立てられそうな立派な家だ。

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 「日本で空き家が増えているのは流通市場で中古住宅を適正に評価する仕組みがないから」と指摘するのは住宅デザイン研究所(広島市)社長で一級建築士の金堀健一氏。 同氏が理事を務める一般社団法人建物評価研究機構(東京・神田、岩崎隆代表理事)はこのほど、7年の歳月を掛けて「THK住宅査定システム」という新しい評価方式を開発した。築年を重ねた戸建て住宅でもその実態に見合った評価を算出することができるので主に流通市場を担う仲介業者の利用を想定している。

 具体的には従来のように取引事例比較法だけに頼るのではなく、個々の部屋の状況、リフォームによる耐震性や断熱性の向上なども反映して、かつ使用している建材や設備が普及品か、中級品か、上級品かも考慮して評価する仕組みだ。これを全国的に普及させる方法を話し合う検討会が5月7日、同機構会議室で開かれた。会議には岩崎氏、金堀氏のほか不動産関連の専門家などが参加した。

 「現在特に困っているわけではない仲介業者らに関心をもってもらうためにどうするか」(金堀氏)という難しさは十分認識した上で議論は約2時間にも渡り、以下の3点で全員が同意した。

鳥取県が運用

 一、鳥取県が既にTHKシステムの鳥取県バージョン(T-HAS)を開発し運用を始めていることから、今後は他の自治体にも同様の連携を呼びかける。鳥取県は「とっとり建築省エネ住宅」を20年に開発。昨年からは「鳥取県住宅ストック性能向上コンソーシアム」に建物評価研究機構が参画し、県が力を入れる住宅性能向上に寄与してきた経緯がある。

 二、我が国の流通市場活性化のためには業界が従来の築年評価(木造戸建て住宅は築約20年でゼロ評価)を止め、実質的価値を評価する市場にする必要がある。そこでそうした考えに賛同する仲介会社らによる勉強会を設ける。その際、住宅価格(土地代+建物価格)のうち、土地代が突出していない(建物価格がそれなりのウェートを持つ)地方業者への呼び掛けを強めるほか、高い建築技術を武器に不動産業への参入を目指す工務店の参集にも力を入れる。

 三、住宅の評価方法を変え新たな流通市場を確立するためには、一般の住宅ユーザー(売主・買主)の理解も得なければならないので時間が掛かる。そこで着実に前へ進むためには住宅査定士の認定数など毎年の達成目標を具体的に定める。住宅査定士はTHKシステムを使うことができる同機構認定の資格者。

〝大量相続〟時代

 総務省は4月30日、速報集計として23年10月1日現在の空き家総数が900万戸(18年調査時849万戸)に達したと発表した。特に注目すべきは賃貸・売却用や別荘などの二次的住宅を除いたいわゆる「目的なし空き家」が385万戸と前回調査時から37万戸、10.6%も増加して全空き家数の増加率6%を大きく上回っていることだ。

 利用目的が決まらないまま放置されている持ち家が増えるのは、戦後急速に拡大した核家族社会と、超高齢化による〝大量相続時代〟への突入による当然の帰結だ。

 親の家に子世代が住まないのであれば、第三者への譲渡が進まないかぎり空き家は増え続ける。第三者への譲渡を活発化させるためには、築40~50年を経た住宅でもその利用価値が適正に評価され、そしていずれの日か、むしろ年月を経た住まいにこそ味わいを見出す文化が日本にも根付く必要がある。