人口減少と空き家の増加が止まらない中で、住宅・不動産業界は、住宅政策を都市経済学的な観点だけでなく問題を解決する社会学の観点から見直すことが求められている。マスプロダクションに基づく住宅産業の最大化は終焉を迎え、少子高齢化問題を踏まえての発想の転換が必要だ。人口の減少が確実となった今、計画性のない新規供給は構造的に行き詰まる。
大都市圏でも過疎地域が顕在化する公算は大きい。高度経済成長期に大量に人が都市に移り住んで来ただけに、その世代が一斉に高齢化し世を去る局面を迎えれば大量の空き家が生まれかねない。高齢社会の進展は都市部のアキレス腱(けん)だ。団塊世代は2025年に後期高齢者になるという避けがたい事実が迫っている。独り暮らし、夫婦のみとなり、長らく住んだ家を持て余す高齢者も増えている中で、老人ホームのような施設的な住宅と高級シニア住宅の中間的な商品が不足している。
コミュニティ形成も問われ、郊外・地方ではモビリティ問題を解決しながら街のコンパクト化に焦点を当てていく必要がある。エネルギー効率を考えれば、郊外・地方の駅前で大規模な住宅開発をしつつ、生活利便性や医療・福祉を埋め込むといった機能の集積化を図るコンパクト化はせざるを得ない。明治大学名誉教授の市川宏雄氏は、「都市が自然環境に対して果たすべき役割も高まっている」と指摘し、都市のデータを読み解いて優先事項を絞り、世界のトレンドに合っている政策を実行することが街の評価を高めると説く。
では、住宅は商品としてどうあるべきか。売れ筋商品の動向を細部にわたって見ていく「虫の目」と住宅を産業として俯瞰(ふかん)できる「鳥の目」という2つの視点が欠かせない。戦後一貫して供給者側の視点で物事が進み、売り上げ目標をクリアするための戸数主義みたいなものが跋扈(ばっこ)し、その批判を受けていたにもかかわらず方向を修正できなかったが、もうそれでは済まされない。
虫の目で見れば2点が挙げられよう。日本人は新築志向とされているが、今後は中古住宅の商品開発に軸足を置かなければならない。リノベーションなどを駆使して住みたくなるような中古住宅を供給し市場に厚みを持たせられるかがカギを握っている。欧米に比べれば中古住宅の流通量に大きな開きがあるが、中古価値が徐々に見直されている現状を踏まえ国は政策の手綱を緩めてはならない。
もう一つの視点は急速な高齢化に追い付いていない住宅商品の拡充だ。共働きの増加で子育て世帯向け商品がもてはやされる一方で子供が小さい頃だけの一時的な商品にすぎない。半面、高齢者向けは持続的な需要が見込める息の長い商品となり得る。住宅産業の現場で働く人、住宅政策に関わる人、学識経験者が連携して社会課題の解決と商機につながる知恵に期待する。