遅々として進まぬ地方創生。自由民主党の石破茂総理は、10月27日の衆議院議員選挙に挑むに当たり、「地方の振興で日本全体を元気にします」を選挙公約の一つに掲げた。2014年9月3日に初代の地方創生大臣として就任した当時は、東京一極集中を是正して地方に活気を取り戻すことに注目が集まったが、あれから10年が経過したものの、新型コロナ禍を経てむしろ東京一極集中が加速している。少子高齢化や人口減少、過疎化など多くの問題に直面し、地方創生の声を上げながら何も進んでいない。リモートワーク、ワーケーションなど働き方の多様化は人々の価値観に影響を与えたかに見えたが、コロナ前と価値観が変わっていない現実を突き付けた。
地方の活性化には何が必要なのか。足元で最も期待されているのがAIの活用によるDX戦略の推進であろう。DX戦略では、デジタルの力を使って社会、または企業の価値を高めていくのが本来の趣旨である。テクノロジーを使って何をするのか。スマートシティーを全国的に広げることが欠かせないが、その可否を判断する際にAIやビッグデータを使うことで、例えば、指定エリア(土地)の中で最大限有効活用できるのが何であるかを瞬時に計算できる。
もっとも、地方創生を考えるに当たっては政府が主導する政策が欠かせないのはもちろんだが、地域を盛り上げる地元自治体の熱量も必要だ。DXを使い収益可能性の高いエリアを掘り起こすことに長けている大手不動産としても、見捨てられかねない地域に目を向けて地元と知恵を絞り出し、新たな需要を生み出すエリアマネジメント力を発揮してもらいたい。
そうした過程でDX戦略によりイノベーションを巻き起こすことが地方創生につながると考えるならば、20世紀に起こした不動産のイノベーションは、不動産の証券化技術の確立が挙げられよう。バブル経済が崩壊して不動産がたたき売りされ、不動産市場が本当に立ち直れるのか、という不安が渦巻いていた中で、不動産の証券化市場を創設する動きが始まり、ビッグデータでリスク量が計算できる指標を開発して不動産価格の透明化を図るということをした。
不動産イノベーションをどう起こすか、何をすべきか。新しいテクノロジーを基に作り上げていく市場の問題でもある。不動産証券化市場を確立させた良い前例がある。つまり、どのような未来を作るのかが問われており、そこには、さまざまな課題を踏まえたうえでの共感がなければスタートできない。社会課題に対する共感力を醸成し、問題を整理して解決するためのアイデアを創出し、プロトタイプを作り上げてテストを繰り返す。最初からうまくいくことはない。
さて、衆議院選は自公が過半数割れとなった。政権運営が不安定になる中で、地方創生という宿題を置き去りにしないことを願う。