不動産経済研究所の調査によれば、昨年1年間に売り出された首都圏新築マンションの平均価格は7820万円だった。都県別では東京23区が1億1181万円(23区以外は5890万円)、神奈川県は6432万円、千葉、埼玉は5500万円~5600万円台となっている。建築資材や労務費の値上がり(人手不足)が続いているためこうした状況は当分続きそうだ。
厚生労働省の都道府県別平均年収(24年版)を見ると東京都471万円、神奈川県452万円、千葉県435万円、埼玉県426万円となっている。つまり新築マンション価格はどのエリアも年収の10倍をはるかに超えている。東京23区の場合、平均年収は約527万円なので、倍率は21倍にもなる。これでは一般勤労者世帯にはとても手が届かない。これは明らかに国民にとって不幸である。
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新築住宅の価格を下げるためには建築資材または労務費、あるいはその両方を下げる必要があるが、いまのところその可能性も対策も見つかっていない。ところが全く異なる方向からその解決策を提示する人物がいる。広島県宅建協会顧問税理士の黒木貞彦氏である。
黒木氏によれば現行、10%の消費税を負担しているのは最終消費者だけで事業者は税額控除をするため実質的には消費税を一銭も負担していないという。
例えば100円ショップ事業者は消費者から預かった10円を納税するのではなく、仕入れ価格が80円であれば仕入れ業者に払った8円の消費税を引いた2円を納税するだけである。つまり自ら払った消費税は戻ってくるので自分の腹は1銭も痛めていない。
ならば、こうした不公平税制を改め消費者も事業者もすべての「買い手」が2%の消費税を払い、すべての売り手が預かった2%の消費税を納税するようにすれば税収は現行とほぼ同じ約30兆円を確保できると主張する。この税率2%の簡易な消費税に切り替えれば物価が今よりも8%分下がるし、事業者はやっかいなインボイス制度による事務負担から逃れることができる。
黒木氏の主張の本質は「消費税と付加価値税は別個なものなのに、現行制度は消費税に付加価値税の「売り上げ税額-仕入れ税額」という算式をはめ込んでいることが大きな誤り」ということだ。もし、この黒木氏の改正案が実現し消費税率が2%に下がれば、その最も大きな恩恵を受けるのが新築住宅業界となる。新築住宅の建物価格が1億円なら800万円、5000万円なら400万円も下がるからである。
わいてくる疑問
筆者は黒木氏の説明を100%理解しているわけではない。ただ、改めて国税庁ホームページの「消費税のしくみ」を見てみると以下の疑問がわいてくる。まず「税の負担者と納税者」欄にはこうある。
「消費税は、商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、消費者が負担し事業者が納付する」。つまり、事業者は消費税の納税者だが負担者ではないと読み取れる。
しかし、次の「課税される取引」欄にはこうある。「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸し付け及び役務の提供に課税され、商品の販売や運送、広告など、対価を得て行う取引のほとんどは課税の対象となる」。
つまり、ここでは事業者も消費税が課税される負担者だとしている。実際、説明の後半では「納税義務者(課税事業者)」と「免税事業者」という欄があるように、免税事業者以外の事業者は納税者であるだけでなく消費税の課税対象者であることが明記されている。
だとすれば、事業者が実際には預かった消費税から自社が払った消費税を引いた残りの預かり金を納税するだけで実際は消費税を一銭も負担していない現行制度にはやはり疑問が残るのである。