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不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編(72) ~畑中学 取引実践ポイント~ 注意すべき3点、曖昧にせず「売主の意思能力の確認」

 売主の意思能力(判断能力)の有無は売却の媒介契約までには不動産会社の担当者自身で必ず確認するのが原則だ。意思能力とは自分の行為の結果を認識判断できる能力のこと。つまり、私たちは売主がどの不動産をいくらで売り、売却代金をどう使うのか、それらが認識判断できているか確認を取る必要があるのだ。 理由は、そこを曖昧(あいまい)にして売却手続きを進めていくと、所有権移転登記の際に司法書士から「意思能力は認められないので、登記ができないです」と登記が拒否され売買が不成立になるリスクがあるからだ。そうならないためにも、売主自身の口から「この不動産をいくらで売却してほしい」と明確に言われ、意思能力に問題がない=登記完了まで進められることを確認しなければならない。売主が忙しくとも売却活動前には売主と会ってその意思能力を確認しておく努力が不可欠と言える。

 意思能力の確認で注意すべきは次の3点の状況だ。(1)売主が高齢であること、(2)売主の代理で親族が手続きをしていること、(3)売主のための売却ではないこと、この3点の状況の場合は慎重に確認を取っていく。

 売主が高齢の場合は当然に注意が必要だ。認知症になる可能性も高く、加齢による衰えがあるからだ。売主が明確にどの不動産をいくらで売却するか口にできない、もしくは話をして見て「少し怪しいな」と意思能力の確認ができない場合は、迷わず司法書士や医師などに面談していただくなど専門家の力を借りることも検討しよう。

 親族が売却の窓口となっている場合でも、1度は売主本人と会い意思能力は確認しておく。一般的に親族は意思能力への認識がかなり甘い。「父親はハッキリと自宅を売ると言っていました」と言うので父親に会ってみるとどの不動産を売るかさえも分かっておらず全然ダメということも多々ある。「年に数回、ダメな日があるけど今日がそれか」と悪びれずに言われ、先に言ってほしい、ということも。

 また、「よく分からないので息子と相談をして欲しい」と売却が他人任せだったり、近くにいる親族をチラチラ見て助けを借りる(言わされている)かのように話す場合は、本人に意思能力がない可能性が高い。筆者の感覚ではこの状況だと8割ぐらいは司法書士のOKが取れない。慎重に確認しよう。

 売主のための売却でないときも注意する。相続対策や親族に現金が必要などでの売却は「息子に言われたから……」と売主の意思能力が確認できないこともある。自宅を売却して介護施設に入る、住み替え先の代金に支払う、といった売却の意図と売却代金の使用先がよく分かる場合はともかく、売却理由がよく分からない場合は注意して意思能力を確認していきたい。

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【プロフィール】

 はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。

 2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ 1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。