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酒場遺産 ▶82 台東 八百屋の角打ち 藤本商店 新角打ち1500円セット

 今回は「八百屋がやっている角打ち」である。毎月第2金曜日に八百屋「藤本商店」店主の藤本健次郎さんが開く角打ちなので、「酒場遺産」に相応しいか迷ったが、希にはこんな趣向もあろうかと思い紹介させていただく。ご容赦いただきたい。本連載第21話でも紹介した「日本で二番目に古い商店街」として知られる佐竹商店街から末広町方面に伸びる末広会商店街に、間口二軒ほどの藤本商店という目立たぬ八百屋がある。店の前には「藤本の角打ち 八百屋による新角打ち1500円セット(日本酒+自家製ぬか漬け」とある。中では盛り上がっている様子。「角打ち」の文字を見たならは寄らねばならぬという「職業意識」も出て、アルミサッシの引戸を開けようとしたがなかなか動かない。ガタゴトどうにか入ると、店主と若い常連客たちが温かく迎えてくれた。店主の藤本さんやお客さんも30~40代、ウェルカムな雰囲気が嬉しい。皆この辺りに住まいや職場での縁があるという。考えてみれば筆者とは年齢差20~30歳と随分なのだが、台東区という土地柄なのか、なぜか違和感もなく、近所の美味い食べ物屋の話で盛り上がったり、Facebookで友達になったりと楽しい時間を過ごした。気持ちの良いコミュニティだ。

 酒は新潟県阿部酒造、神奈川県足柄郡瀬戸酒造など店主の好みでそろえている。ツマミは藤本さんの父上の手製という蕪の糠漬けも絶品。元々、八百屋の隣の土地でスーパーを60年ほど続けていたが、この小さな八百屋に移ってから約15年という。3年前に先代から店を継いだ「角打ちというものに憧れていた」という藤本さんは、酒屋ならぬ八百屋の角打ちをはじめた。あくまで本業は八百屋なので月1回にしているという。古い商店の並ぶ台東エリアだが、こうした若い人たちがつくるささやかなコミュニティが所々に生まれつつある。小一時間の滞在だったが、思いもかけず元気をもらった金曜の夜だった。(似内志朗)