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酒場遺産 ▶103 錦糸町 大衆酒場 小松 1952年創業、異次元の安さ

 錦糸町駅南口を出てすぐの京葉道路沿いにあるアーケードを200メートルほど歩くと、狭い間口の「大衆酒場 小松」がある。前回紹介の「三四郎」のような力強いオーラはないが、古いタイルのファサード、使い込まれた暖簾、シンプルに「酒場 小松」と書かれた置き看板は、酒場好きには「ピンとくる」のだ。カウンター内に座る寡黙な店主に店の由来など尋ねると、ぽつりぽつりと話してくれた。

 先代(今の店主の父)が店を開いたのは1952年で、創業72年となる。東京オリンピックの時の土地区画整理事業で、錦糸町駅近くからこの場所に移転したという。暖簾をくぐると、右手の壁側には4人掛けの簡素なテーブル席が3卓並ぶ。そして左側には、2列の10席ほどのカウンターが対面しているのがこの店の特徴だ。カウンター間の狭い空間を、店主が忙しく動き回わる。カウンタートップは大理石調のデコラで、こうした安価な素材も時を経ると風格を持つから不思議だ。

 札幌の銘酒、千歳鶴を熱燗で頼む。寒い夜には燗酒が最高だ。肴も豊富で驚くほど安い。まずはブリ刺しと千歳鶴を頼んだ。酒は、樽生ビール、キリンクラシックラガー・サッポロ赤星大瓶、酎ハイ類、ホッピー、ハイボールなど一通り揃っている。カツオ刺身、生イカ刺し、ブリ刺し、とり貝刺し、カレイ煮、ブリ照り焼き、酢ダコ、ホタルイカ、イカ大根煮、イカゲソ天、レバピーマン炒め、イリブタなど、いずれも500円前後と手頃だ。

カウンターではスーツ姿の仕事帰りのサラリーマンが、夕食なのだろう、ビールと腹にたまりそうな炒め物を頼んでいる。テーブル席では野球帽を被った地元客が、野球の話で盛り上がっていた。今夜は燗酒とブリ刺しで勘定が850円という異次元の安さだった。錦糸町はいい。(似内志朗)