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酒場遺産 ▶104 東京・五反田 日南 人気の定番もつ煮込み

 五反田は興味深い街である。東には白金台、御殿山といった、かつての武家屋敷や大名屋敷があった高台が広がり、西側には上大崎、池田山などの高台があり高級住宅地として知られている。そうした高台に囲まれた目黒川によって刻まれた谷(バレー)に五反田駅は位置している。戦後、駅周辺の低地に闇市が形成され、それが現在の飲食店街や歓楽街へと変貌してきた。 近年は、渋谷から溢れたスタートアップ企業が集結するこの地は「五反田バレー」と称され、都心にありながら、その庶民的なカルチャーは大塚や巣鴨などとともに「ローカル東京」とも呼ばれ、若者たちに人気である。

 私ごとで恐縮だが、五反田近くの東急池上線大崎広小路駅近くの建設プロジェクトで数年を共にした仲間たちと、たまに五反田で飲む。彼らが選んだ店が、ここ「日南」だった。五反田駅東口の繁華街から路地を入ったところに立地するが、「日南」と大きく描かれた和紙が扉のガラスに張られ、店内の灯で行灯のように妖しく光る。昭和40年代創業というから60年以上続く老舗と言ってよいだろう。この「日南」という名前は、現店主の小夫家貴和子さん(創業者の奥様)の出身地が宮崎県日南市であることに由来しているという。

 店に入ると、焼酎の一升瓶が壁を埋め尽くしている。名店と言われるだけあり、聞きしに勝るディープな雰囲気と肉の美味さだ。客席密度が高いが、照明を落としているためか、落ち着いていて不思議と居心地がよい。そして何を食べても美味しい。定番の牛ハラミ串焼(ひとり一串。900円)、牛ナンコツ串焼き、牛タン串焼など串焼きが絶品。人気の定番は、味噌・醤油出汁で長時間煮込んだもつ煮込み、厚切りハムを揚げたシンプルなハムカツ、サクサクのアジフライだ。酒は一通りそろっているが、2階席ではビールや炭酸水などは、客が冷蔵庫を開け、勝手に取って飲むのも面白い。そしてシメのカレー、これがまた美味いのだ。五反田は奥が深い。(似内志朗)