「過去のデータだけを扱うAI」の時代が終わり、「自ら思考・推論するAI」の登場によって、仲介業者と依頼者の関係が大きく変わろうとしている。一時は仲介業という仕事が全てAIに取って替わられるとの観測もなされたが、今はもう少し深い議論がなされている。しかし油断はできない。AIの更なる進化と人間の劣化が重なれば、仲介業から本当に「人が消える」可能性はゼロではないからだ。
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第4世代と言われる「推論型AI」は、これまでのAIが膨大なデータの中から相関関係(パターン)を見つけ出すことに長けていたのに対し、単にパターンを再現するのではなく、観察→仮説→検証→再推論というサイクルを繰り返しながら依頼者にとっての「最適解」を導き出す。
例えば従来型AIでは「この物件の売却可能価格は○○~○○万円の範囲」と推測するが、それは過去に取引されたデータを根拠としているだけで、「なぜ、そう言い切れるのか。こういう条件が加わったらどうなるのか」とまでは考えない。それに対し推論型AIは「この物件は今計画中の再開発事業が始まれば価値が大きく上がるのでは」という仮説を立て、その可能性を関連情報から検証し、再開発が始まる確率とその影響の度合いまで考える。
人の頭脳に近づく
このような推測はまさに、これまで人間がしてきたことである。AIが人間の頭脳に近づきつつあるということだ。しかも「推論型AI」の能力はそう遠くない日に人間(宅建士など)の能力をはるかに上回ることがほぼ確実と見られている。AIは不動産関連の知識だけでなく、金融、経済、政治、世界情勢などあらゆる情報を分析したうえで答えを導き出すからだ。
ただし、「推論型AI」にも限界があって、その仮説や検証は論理的整合性と確率モデルに基づく推測に過ぎない。だから、その思考スタンスが依頼者の意図や価値観と必ずしも一致しているとは限らないということである。とすれば、これからの仲介業従事者に求められる役割は、「AIが導き出した最適解について依頼者の立場に沿って助言をしたり、決断を促したり、安心感を与えるなど精神面から支えるパートナーになること」だという意見がある。ただし、パートナーとしての信頼をどうやって獲得するのかという課題は残る。
止まらない進化
不動産の専門家としてのスキルを磨くことはもちろんだが、大事な資産でもある住まいについて安心して相談できるパートナーとして認めてもらうためには、人間としての誠実さや品格も身に着けなければならない。ただし、そのための時間はもうあまり残されていない。なぜなら、「推論型AIの研究は既に依頼者である「人間の意図」までをも推理しようとする段階に進んでいるからである。
例えば、依頼者が「駅から近いことが条件」と言ったとき、それは通勤の利便性だけではなく「資産性」も重視しているのではないか、「子供を育てやすい街がいい」と言ったとき、実際には「行政による支援」を求めているのか、「教育環境」なのか、「治安の良さ」かなど、依頼者が最も重視していることまで汲み取るAIが間もなく登場する。
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AIがどんなに進化しても「人間にしかできないことは必ずある」と言われてきた。仮にそうだとしても、それは何かという問いを人間は発し続けなければならない。今後は、AIの進化と人間の人間力強化の競争になる。
仲介業者の使命が最終的に〝人間力〟になるのだとすれば、報酬の在り方も当然変わる。成功報酬ではなくなり、「アドバイザリーフィー」といった概念に変わっていくかもしれない。ましてや、事前に額を決めておく「仲介手数料」なる概念がいつまでも残っていくとは思われない。



