SUUMO編集長で同リサーチセンター長の池本洋一氏は11月25日に行った第48回不動産女性塾の講演で、これからの不動産業(主に仲介や賃貸業)のビジネスチャンスとして以下の5点を挙げた。
(1)増える単独世帯(2)大都市圏の世帯数は35年まで増え続ける(3)首都圏で賃貸住宅の問い合わせが急増(4)住宅の狭小傾向による収納・間取りの変化(5)ペットとの共生……。
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賃貸への問い合わせ急増は家賃上昇や売買物件の高騰が背景。24年の問い合わせ数は20年比で東京都が134%、千葉県が129%、神奈川県が128%、埼玉県が123%と2~3割上昇している。つまり「賃貸to賃貸」層が増加していると池本氏は指摘。この傾向は今後も続く可能性が高いという。
収納や間取りの変化については、新築分譲マンションでは60m2未満の物件や1LDKと2LDKの間取りが増えていることを指摘。そのうえで分譲でも賃貸でも「省くことが出来るのは子供部屋」と指摘した。「子供が個室で勉強していると思うのは幻想にすぎない」と述べ、現に自分の部屋よりもリビングにいるほうが心地よいと答える割合が小学生では約8割、中学生でも6~7割にも達しているという調査結果を紹介した。
また、キッチンとダイニングテーブルが向き合った流行りの対面型はもう古いし動線が良くないと指摘。それよりもキッチンとダイニングテーブルは横に並べて置き、そのまわりを回遊できるアイランド型が効率的だとも語った。 そのほか、近年はバルコニーではなくランドリールームを設ける傾向や、タブレットやスマホ視聴、プロジェクター投影などの普及でテレビ中心のリビング設計ではなくなってきていることなども指摘した。
最後にペット可物件に対する需要が高まってきていると指摘。24年時点で新築物件(賃貸)の45%程が「ペット相談可」になっているとし、築年が古くなるにつれその割合は下がるが、築25年を超えるあたりから再び「ペット相談可」の割合が高まっていることについて「空室対策が背景にあるのでは」と語った。
自身でも賃貸経営
池本氏は自身でも賃貸住宅を経営していることで知られる。実務や現場を経験することが業界の実態を知ることに役立つからだ。
そうした現場経験を踏まえたうえで、池本氏はこれからの賃貸経営に必要な視点についても貴重なアドバイスを行った。断熱性を強化して冬暖かく夏涼しい家にすることの重要性やそのために必要な建材、また高い断熱性能の魅力を入居者に分かりやすく訴える方法なども紹介した。
また仲介会社からの営業社員からは「単に部屋を紹介するだけでなく、光熱費の削減、美容・健康にも良いなど〝暮らしの質〟について説明することに仕事のやりがいを感じる」という声が寄せられていることを紹介。「そこに賃貸業界発展の鍵があるのでは」とも語った。
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池本氏はリクルート社での編集長経験が長く、国の省庁や自治体の委員会にも数多く参加。またテレビ出演も多く、住宅評論家としての知名度も高い。筆者はこの日、池本氏が自らも現場経験を積みながら、真に心地よい住まいとはどういうものかを真摯に研究している姿に感銘を受けた。
分譲価格や家賃が高騰するなか真に心地よい住まいを国民に提供するためには国や自治体の支援策に加え、事業者による努力が欠かせない。
ただ、それでも解決しがたい問題が一つある。それが「職人不足」である。だから池本氏はこう語る。「今、腕のいい職人さえ確保することが出来れば必ず事業に成功する」。
既存住宅の購入とリフォームがセットの売買仲介業者は腕のいい職人がいる工務店と組むことが重要だし、賃貸仲介業者なら大家に改修を進めるに際して腕のいい職人を紹介できれば信頼度が増すことになる。




