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酒場遺産 ▶113 新橋 立飲み処 あじろ なんとも気楽な立ち飲み屋

 筆者はサラリーマン時代、30年以上虎ノ門近辺にいたのだが、新橋の古い酒場を探索した記憶があまりない。近くて「いつでも来れる」ということもあり、ことさらに歩き回ることもなかったのだ。虎ノ門近くにあった職場で遅くまで仕事をした後、同僚・先輩・友人たちと虎ノ門界隈の「鈴傳(赤坂でなく虎ノ門の店)」、「升本(虎ノ門が誇る名酒場)」、「登茂恵(日本酒造会館地下)」、「三恵(女将さんが美人)」、「大串(もつ焼きと怪しい飴色の酎ハイ)」、「絹(秋田弁の女将さん)」、「リリー(爺さんと猫の蔦に覆われたバー)」などで、終電近くまで飽きもせず飲んでいた。今の時代とは違ってワークとライフの境もなく、酒場で都市や建築の議論に熱中したものだった。そんな多くの思い出が詰まった酒場も、大規模再開発などで閉店して久しい。

 改めて新橋界隈の路地を歩くと、魅力的な酒場が実に多いことに気づく。先日、虎ノ門で仕事の打ち合わせがあり、新橋までぶらり歩いていると、立ち飲み処「あじろ」が目に入り、初めて立ち寄った。店主に聞けば「あじろ」は創業47年。元々銀座で寿司を握っていた今の店主(一見頑固そうだが話しやすい)が、寿司屋が傾き、開店したばかりのこの店にアルバイト募集で雇われそれから47年間、モツを焼き続けているという。年季の入った変形コの字カウンターで会社員たちが飲んでいる。キャパは15人くらいか。もつ焼きは一本110円、タコブツ、マグロブツ、もつ煮込みなどの一品料理は200~300円と滅法安い。酒も麦酒、焼酎、酎ハイ、日本酒と一通りそろっている。この日はカシラ、タン、モツ、レバの焼物(塩)、マグロブツと煮込みを頼んだ。酒は京舞妓を熱燗で二合頼んだが、勘定は千円札二枚で釣りが来た。壁に「焼酎はお一人様三合」とある。酔っ払い客を体よく返すために貼ってあるという。昭和の空気そのままのアットホームな雰囲気で、なんとも気楽な立ち飲み屋だった。またふらりと訪れたい(似内志朗)