不動産鑑定業の将来ビジョンが、先ごろ示された。これまでどちらかといえば不動産の評価だけに偏っていた単一型のビジネスモデルを、分析やアドバイザリーなどの多様化型ビジネスモデルへの転換を図ることなどが盛り込まれた。
官公庁からの需要に頼るばかりでなく、個人を含めた民間からの需要獲得にも注力していくべきであるとしている。更に鑑定評価制度そのものを、東アジアなど外国に輸出する取り組みも推進していく。
不動産鑑定業のビジョンは、平成5年と同7年にまとめられた経緯がある。今回新たに作成されたのは、時代の変化に伴い、多様化したニーズに対応できるようにしようというものだ。同時に公共事業の縮小などもあって、報酬額が下がってきているといった危機感も背景に見てとれる。
作成に当たって多くの課題が洗い出されたことは、今後の不動産鑑定業の拡大に大いに期待ができる。ただ具体的な実現に当たっては、鑑定士個々人の資質向上に頼らざる得なくなる蓋然性が高い。このためスキルアップのための道筋を手当てする必要があろう。欲を言えば、ビジョンという以上、鑑定業の将来規模について、具体的な数値を示せばよかった。
被災地の評価は
残念なのは、ただ一点。このビジョンが発表されたのは、東日本大震災の発災から1カ月近くが過ぎた4月7日である。しかしながら震災への言及は、A4で40ページほどの報告書のうち、わずか9行にしか過ぎない。それも「大震災においては」という抽象的な表現にとどまっている。
東日本大震災の被害は国難である。復旧・復興にあたって、基盤となる被災地の不動産鑑定は、きわめて重要だ。当面、7月1日現在の都道府県地価調査の実務が控えている。阪神淡路大震災の際は、国土利用計画法の価格審査の関連から、当時の国土庁から局長通知や課長通知が出され、「震災修正」がなされている。今回はそれがないことから、鑑定協会で実務方針がまとまりつつある。
現下の実務では「評価不能」にならざる得ない地域もあろうが、それだけで終わらせてはならない。不動産鑑定士は、不動産価格に最も通暁している専門家である。こういう時こそ分析やアドバイスに期待したい。
産業の確立に期待
報告書では触れられていないが、不動産鑑定士の活躍の場を広げるためには、資格付与の在り方も議論されていい。幅広く有能な人材を確保するための受験制度の改革に、国と連携して取り組んでほしい。
今回の将来業ビジョンは中間報告であり、6月の定時総会までには最終報告がまとめられる予定だ。報告書の最後で、ビジョンは鑑定業が産業として確立していくことに触れている。東日本大震災の復旧・復興に、不動産鑑定士として果たせる役割はなにか。産業としての確立は、まずそのアプローチから始まる。
社説「住宅新報の提言」