政策

社説 公的不動産(PRE)に事業好機 不動産業界の目利き力に期待

 日本銀行は6月の金融政策決定会合で追加利上げを見送り、慎重な姿勢を続けるが、国債の買い入れを減額する方針を決めた。次回7月の会合で減額計画を決めて事実上の量的引き締めに転じる。利上げに向け着々と下地を整えているが、手放しで喜ぶこともまた難しい。好調な企業の税収増に期待して、政府は6月11日に公表した「骨太の方針」の原案で、国・地方の基礎的財政収支を「2025年度の黒字化をめざす」と明記したが、金利上昇は借金漬け日本の財政を悪化させる公算が大きい。

 東証から指摘を受けて企業各社は、資本効率を意識した経営を推し進めており、遊休不動産などの売却が進んでいる。こうした考え方は、国や各地方自治体にとっても当てはまることで対岸の火事ではなく、使われていない土地・建物や赤字を垂れ流している施設などを対象に負債整理を積極的に推し進める必要があるのが現状だ。

 「地方財政健全化法」(2009年4月施行)は、自治体の財政状況を判断する4つの指標を導入している。(1)実質赤字比率、(2)連結実質赤字比率、(3)実質公債費比率、(4)将来の負担比率―である。これらの指標から財政状態が悪いと判断されれば、その度合いによって「財政健全化団体」、もしくは国の関与がより強くなる「財政再生団体」に認定され、再建計画の策定が義務付けられる。公営企業や第三セクターも含まれる。 国の関与を避けたい地方自治体にとっては、バランスシートを調整するしかなく、その過程で当然ながら地方の公舎であったり、ハコモノ不動産、インフラ施設が占める割合が大きく、積極的な債務整理に関連して資産の売却が進むことが予想される。不動産各社や不動産ファンドにとって、企業不動産(CRE)ならぬ公的不動産(PRE)を採算ベースで計ったうえで資産を獲得し、事業機会を得る好機にもなりうる。

 諸外国に目を転じれば、空港や鉄道、道路、港湾施設などの社会資本が投資対象として存在感を出している。英国では1992年に民間資金を活用するPFIを導入したことでインフラファンド設立の起爆剤となった。日本においても再生可能エネルギー関連施設や公共施設等の運営権をインフラ資産対象の範囲に含めた上場インフラファンド市場が創設されて今年4月に10年目を迎えた。一般的な収益不動産などと比べると、流動性が低いことがマイナス面として挙げられるものの、インフラ施設を保有する魅力は長期に安定したキャッシュフローを生み出すことだ。キャッシュフローの変動幅が小さく、将来の収益を見定めやすいことで金利の支払い計画も立てやすい。

 急速な利上げにならぬとも、日銀が「金利のある世界」に向けて動いていることで公的部門での不採算の資産があぶり出される。不動産業界はそれを事業化できるかの目利き力が問われている。