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社説 東京を出ていく子育て世帯 立地超えて「選ばれる街」目指せ

 新型コロナウイルス禍による東京都への転入超過数の一時的な急減が収まり、現在は引き続き「東京一極集中の是正」が大きな課題となっている。しかし、国土交通省のまとめた24年版首都圏白書(6月18日閣議決定)によると、直近の東京都では30~40代が転出超過状態へ逆転しているなど、人の流れに特徴的な変化も見られた。

 東京集中の是正政策の奏功も考えられるが、やはりこれは都区部の住宅価格高騰により、子育て世帯が東京近郊へと転出していると見るのが妥当なようだ。同白書や、内閣府の「日本経済レポート(23年度)」でも同様の指摘がなされている。更に、厚生労働省の「人口動態統計(概数)」(6月5日発表)で、東京都の合計特殊出生率が過去最低の「0.99」だったことも、ファミリー・プレファミリー世帯が東京を離れている動きの表れと言えよう。「都内で家を買えない」層が、これまで以上に増えているということだ。

 この傾向が続けば、首都圏の住宅地は、「価格の高止まり・高騰が続く都心」「都内への利便性で需要を保つ近郊」「都内へのアクセス性が劣る検討対象外エリア」という格差が拡大・固定化されかねない。不動産コンサルタントの長嶋修氏も、以前からこうした「不動産の3極化」論を唱えているが、あくまでも現状認識と将来予測であり、地域間の過剰な格差を肯定するものではないはずだ。首都圏の街づくりに関わる主体は改めて、こうした〝子育て世帯のドーナツ化〟傾向への対応を検討し直す時期を迎えている。首都圏白書は、コロナ禍による社会の変化として、住環境重視の傾向の高まりや、ある程度のリモートワーク普及なども指摘。これらの要素も踏まえ、地域の魅力を高めていくこともできるのではないか。

 当然、自治体による子育て支援施策の手厚さも、子育て世帯の流入やつなぎ止めにおいては重要な要素だ。自治体間の財政的な格差を考えれば、地域任せにせず、国が大局的な視点から積極的に関与していくことも今後一層求められるだろう。

 同時に、地域に根差し、街づくりの主体となる地場の不動産事業者にも、できることは大いにあるはずだ。一例ではあるが、フレキシブルオフィスや商業施設、教育施設等を開設・誘致すると共に、コンパクトシティ化の実現を目指すなど、就労・子育て環境の充実化で課題解決を図る手法が考えられる。自然環境や歴史・文化的特色といった地域資源を活用して、都市部とは異なる住環境の魅力を発信していくことも有効と考えられる。

 いずれにしても、各地域の行政と住民、事業者らが、立地優位性を超えて「選ばれる街」を目指すための明確なビジョンを構築・共有することが必要だ。これは首都圏に限らず、全国の自治体にとって、持続可能な地域づくりのために必要な視点と言える。