近年、リノベーションを起こすのは「若者・よそ者・ばか者」だとか、会社が求めるのは指示待ち人間ではなく、自ら行動するチャレンジ精神をもった人間などと言われるようになった。
リブラン創業者の鈴木静雄相談役は社員に「会社に出社するな!地域に出て社会の課題を見つけ、それを会社の本業を通じて解決する方法を考えろ」とハッパをかける。
なぜ、今このように個人の才能やヤル気に注目する時代になったのか。それは「人恋しい時代になったから」というのが最もシンプルな答えになる。
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〝人材不足〟という言葉がマスコミに登場しない日はない。少子高齢化による人口構造の変化で労働力の供給が需要に追い付かないからだ。業種的には医療や介護、建設、物流業界などで深刻化している。しかし、これらは正確に言えば人材不足ではなく労働力不足である。
人材という言葉には本来〝有能〟という意味合いがあるので、単なる量的不足を人材不足と表現するのは誤りである。これは昨今「人財・人材・人在・人罪」などの言葉が面白おかしく使われている影響が大きい。ちなみに筆者は「人財」という言葉が嫌いだ。人を金儲けの手段と見ている印象が強い。
そうした文脈で言えば不動産業界は労働力不足ではなく、まさに「人材不足」である。11月26日、東京の明治記念館で開かれた第42回不動産女性塾で講演した明海大学不動産学部長の中城康彦氏はこう指摘した。「不動産需要の短期変容と不動産ストックの長期耐用を両立させるためにはより高度な人材が必要だ」と。
明海大学に我が国唯一の不動産学部が創設されたのは地価急騰(バブル)崩壊直後の1992年だった。土地神話崩壊で混迷する日本を救うには様々な分野で活躍する〝不動産人材〟が必要になるとして、当初は「行政政策」「金融鑑定」「経営管理」という3分野(行政・金融・実務)を担うコースでスタートした。
中城氏は96年に明海大学の専任講師として赴任したが、当時は学生数も増えコースは新たに「開発企画」「環境情報」が加わり5コースに増えていた。しかし2000年頃になると公務員を目指す学生が少なくなり「行政政策」を廃止。同時にこの頃から学生の学力低下が目立ち始めたともいう。09年からはコースを「ファイナンス」「ビジネス」「デザイン」の3つに絞り、コース名も学生受けのいいカタカナに変更した。中城氏が学部長に就任したのは12年4月だったが、それから現在に至る12年半は学部への入学志願者を増やす努力と試行錯誤の連続だったと話す。
業界の責任
講演を締めるに当たり中城氏はこう語った。
「現在の卒業生は宅建士の資格を1.2年の時に取得しているだけでなく、3.4年時にデザインコースなら建築設計、建築施工、不動産管理、ファイナンスコースならローンアドバイザー、ファイナンシャルプランナーなど高度な専門知識を習得しているので、ぜひ皆さんのご支援をいただきたい」と。
明海大学不動産学部が日本で唯一の存在でありながら、学生数を伸ばし切れていない責めは大学側にあるのではなく、筆者に言わせれば業界の責任である。不動産業界で働く人たちの社会的ステータスが上がれば入学者数は自ずと増えるからだ。
業界の社会的ステータスを上げるには、営業職なら全員が持たなければならない公的資格の創設が鍵になる。特に地元中小業者に対する国民の信頼を確保するにはこの営業職必携の公的資格を欠かすことはできない。
将来不安が募る若い世代にとって、せめて住まいと資産形成について親身になって相談に乗ってくれる人材が身近にいれば心強い。しかし現実はそうした状況に程遠い。国民は不動産業界に信頼できる人材、〝人恋しさ〟を抱いている。