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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇162 楽しくお別れ 心に沁みた役員挨拶 語りつくせぬ思い出

 「人生楽しんだもん勝ち」――アールシーコア創業者、二木浩三氏はこの言葉をよく口にした。ときに真顔で、ときにため息まじりに。深い感性を忍ばせたログハウスのBESSシリーズは「暮らしを楽しむための道具」とはしながらも、どこか高貴な気品があるのはなぜか。もはや二木氏に問うことはできないが、人は何を楽しいと感じるのか、楽しさとは何かを考え尽くした商品が醸し出す矜持のようなものだろうか。

 何を楽しいと感じるかは人それぞれだが「人間も自然の一部」と考えれば、万人に受け入れられる楽しい家づくりは可能だ。雨が降れば雨だれの音を聴き、晴れた日には庭の草木に癒され、寒い日は薪ストーブの中で揺らぐ炎に心奪われる。二木氏はまさにそうした感性を呼び覚ます家づくりを目指したのだと思う。

 感性は知性や理性と違って理屈ではないから心の奥底とつながっている。心の奥底には潜在意識がある。だから、感性を呼び覚ます家づくりは潜在意識を形にするということかもしれない。

 二木氏は生前、「情報化時代の次に来るのは意識の時代」と言っていたが、それは「人間の潜在意識を形にする時代」という意味ではなかったか。BESSの家に入ると何かに出逢った気がするのはそのためではないか。

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 1月22日、東京・代官山の「BESS MAGMA」で故二木浩三氏の〝お別れの会〟が開かれた。しめやかな儀式はなく、同社取締役の加藤晴久氏、浦崎真人氏、谷秋子氏、壽松木康晴社長の順で二木会長との思い出を語った。

 「旅立たれる直前に二人で話をしたとき、〝楽しめ〟という言葉をいただいた。今はその意味を深くかみしめる日々」(加藤氏)

 「2005年、上場に際しいよいよ株価の条件決定というとき、普段見たこともない不本意そうな苦い表情をされた。おそらくIPOの不条理な事実に直面されたのだと思う。時に厳しい決断をされる人でもあったが、普段は楽しいイベントをすることが大好きだった」(浦崎氏)

 「創業の時から40年近く率いていただきました。思い出すことは山ほどありますが、とにかくその発想力が凄かった。思い付いたことを楽しそうに得意そうに社員に話していた姿が思い浮かびます。あるいは社員の話からヒントを得ると、それが2、3日後には今度は全く逆の方向からビックリするほど膨らんだアイデアとなって返ってくる。その深く物事の本質を捉えようとする二木のDNAはいまや会社全体のものになろうとしているだけでなく、2万数千棟に及ぶBESSユーザーの暮らしそのものに引き継がれようとしています。こんな時代だからこそBESSを知ってくれる人をもっともっと増やしていくことが残された私たちの使命だと思っています」(谷氏)

社長あいさつ 

 「我が子のように愛したBESSの象徴とも言えるこの代官山マグマでこんなにも多くの方々に見送られて、今頃はいつものあの照れ臭そうな顔で喜んでいると思います。二木が残した多くの言葉がありますが、その中の一つに「ポスト情報、意識の時代」があります。情報が氾濫しその価値が薄れていく中で、人間の奥底にある善良な意識を呼び覚ますことができれば、これからも多くのBESSファンをつくっていくことができるはず、という二木の慧眼に改めて驚かされるばかりです。ではポスト意識の時代はどうなるのか、それはまだ分かりませんが、会社を立ち上げたときの〝なにか面白いことやろうぜ〟という創業精神を引き継いで、世の中に何らかの痕跡を残したいと思っています。褒められたことはあまりなかったですが、いつの日か「まずまずだなぁ」と言ってもらえるよう努力して参りますので、皆様には今後一層のご支援をいただきますようお願い申し上げます。本日はご多用の中ご参列いただきまして誠にありがとうございました」