前橋市がまちづくりで注目を集めている。前橋市の馬場川通りは、ジンズホールディングスCEO田中仁氏が私財を投じた白井屋ホテルを核に、官民協調のまちづくりにより大きく変貌を遂げた。かつて荒廃していた馬場川沿いは、白井屋ホテルを契機に水辺空間の整備が進み、緑豊かな遊歩道や新たな店舗が次々と生まれ、賑わいを取り戻した。この動きはさらに広がり、前橋駅から馬場川通り方面への歩行者ストリート整備の国際コンペが行われ注目されている。
こうした出来事とは無縁であるかのように、中央通り商店街と弁天通りの古いアーケードは人通りも少なく寂寥感が漂う。通りのシャッターの狭間から「呑龍横丁」へ続く細い路地がある。200メートルほど歩くと、かつては戦後復興のシンボルだったという横丁が現れる。ジンギスカンカムイ、焼き鳥すみっ子、呑ちゃん酒場、蕎麦居酒屋山人、小料理由多加、おばんざい爽、ヤギカフェなど、小さく個性的なスナックや居酒屋などが並ぶ。
筆者が訪れたのは大晦日の1日前、開いている店は数軒だった。焼き鳥「すみっ子」に入り、カウンターに座りおでんをつつきながら地酒「巌」の熱燗を飲んだ。地元客の話が耳に入ってくるが、これも旅先の酒場の楽しみのひとつである。聞いていると9割以上は人柄や人間関係。人は人の話が好きなのだ。
呑龍横丁の始まりは、戦災復興計画に基づき大蓮寺の土地に「呑龍仲店」が建てられ、焼け野原の中のマーケットとして復興のシンボルとなったという。1982年の大火でほぼ全焼し、一時賑わいを見せたものの店舗数は4軒にまで減少したが、その後、大改修を経て持ち直したという。様々な賞を受賞した馬場川通りエリアの快進撃が素晴らしいと思う一方で、昭和の空気が色濃く残る呑龍横丁に、どこか切なく愛しい気持ちを抱いてしまう。(似内志朗)