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酒場遺産 ▶99 京都 おとみ L字型カウンター8席の極小店

 毎年4月から5月に京都で行われる京都国際写真祭(KYOTOGRAPHIE)には、この数年毎年訪れている。街の古い民家や社寺などの歴史的建造物で行われる写真展は、他では経験できない素晴らしい体験であり、外国からも多くの人が訪れる。終日街中を歩き写真作品を見て回った後、京都の酒場を探すのが楽しみだ。東京在住の私にとって、京都の酒場には計り知れない深さと広がりがあることを承知の上で、偶然の出会い、気に入った酒場のいくつかを紹介したい。

 賑やかな河原町通から西木屋町通へ入り、高瀬川から少し路地に入ったところにおでん屋「おとみ」はある。初めてでは入るのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうような佇まい。白い暖簾をくぐり引き戸を開けると、L字型カウンター8席の極小店舗。女将と常連客が醸し出す温かい空気に満ちていた。私以外の客7人は全員女性だった。右側の60代と思しき大阪と京都の女性は、まるで掛け合い漫才のようによく喋る。途中、「仕事の帰りですか」と話に巻き込まれた。聞けば、毎冬には親戚や友人と長野県野沢温泉村の築100年の民宿を借り切ってスキー合宿を行い、夏はスキューバダイビングに行くという。ついには「都合がつけば一緒に行きませんか」と誘われた。そのパワフルさには驚かされる。左側には、中国南京から日本へ旅行中の若い女性が2人。KYOTOGRAPHIEを見てきた帰りだという。ここはまさに小さなコミュニティだった。

 熱燗を一合、そしておでんのお任せ4品を頼んだ。関西風のおでんは、薄味ながらも素材の旨みが凝縮された出汁が美味しい。大根、たまご、厚揚げ、蛸といった定番の種が並ぶ。おでん鍋の横には、大皿に盛られた「素人料理」と書かれた料理が並んでいた。日替わりで、刺身や焼き鳥、チヂミ、煮物などを出すという。値札はついていなかったが、勘定はリーズナブルだった。創業は昭和35年というから、今年で65年目になる。(似内志朗)