オフィス賃料の下落やフリーレントの広まりで、このところ東京都心部では事務所の移転が花盛りだ。新規ビル供給の当たり年でもあり、大手も中小も、業種を問わず、業績いかんにかかわらず移転を検討する企業も多い。賃料負担が軽くなるのも、今の市況では当然。特にオフィス賃料が高騰した時期に、新規契約を結んだテナントは、移転の恩恵が高い。
▼先日も、そんな事情で移転したというある企業の新しいオフィスを訪ねる機会があった。お会いした代表者が、賃料交渉の裏話を聞かせてくれた。定期借家契約を結んでいた従前のオフィスの賃料は明らかに相場より高かったため、最初は移転ではなく値下げをオーナーに申し出たそうだ。残念ながら返ってきた答えはノー。そこで経営陣の刷新も重なったこともあり、思い切って事務所を移転することに決めたそうだ。
▼いざ解約を申し出ててみると、初めて賃料値下げの受け入れを表明されたそうだが、そこまで気持ちが固まっているのだから、どんな良い条件で引きとめられても白紙に戻す気持ちになれる訳がないと、きっぱり断ったという。足元を見たのか、解約するはずがないと思い込んでいたかは知る由もないが、心情的に考えれば当たり前の話だ。テナントの思いに心を配るオーナーではなかっただけのこと、と言えばそれまでだが。