昨年、新型コロナウイルス対策による初めての緊急事態宣言が発せられ、住宅展示場が休止し、注文住宅の営業現場は混乱した。それが解除されてから約1年が経過し、ウェブをはじめとしたデジタルを活用した営業スタイルも定着。受注成果も上げているが、課題も見えてきた。一方、これまで注文住宅営業の主役だった住宅展示場は、〝顧客との最初の接点〟から〝顧客との関係を深める場へ〟と、そのあり方を変えつつある。大手ハウスメーカーの注文住宅営業の今を取材した。(桑島良紀)
まずは、大手ハウスメーカー各社に共通する注文住宅営業の大まかな流れを見てみよう。最初の顧客接点は、紹介のほか、ウェブや電話、メールによる資料請求や問い合わせが主流となっている。資料請求や問い合わせを受けて、各種イベントやセミナーなどの案内を送ったり、顧客の都合に合わせて、ウェブや対面での打ち合わせを重ねて、住まいのプランを具体化し、契約に至る。
ウェブを活用するポイントは、この流れのそれぞれの部分だが、企業によってその使い方に特徴が出ている。
積水ハウスは、「おうちで住まいづくり」という専用ホームページを設置し、在宅のまま電話やウェブ会議を使って、商談を進めるほか、土地の手当て、資金相談まで受け付ける。理想の住まいをイメージできるよう、社員の住宅紹介やVR(仮想現実)、動画を活用した「バーチャル展示場見学」を展開する。
旭化成ホームズは、以前は顧客の仕事の後の時間帯に電話でのやりとりで商談を進めてきたが、Teamsなどを活用して顧客の顔を見ながら資料を提示して話すようになった。
商談は住宅展示場への来場予約やオンライン相談会に参加した後に、感染症対策を徹底して行うようにしており、顧客接点としてオンラインイベントを活用している。
住友林業は、家づくりを紹介するウェブページ「MYHOME PARK(マイホームパーク)」を展開する。ここでは、動画や実写写真、3D映像などを駆使して、同社が提供する木の住まいの魅力を解説し、一般に分かりやすい形で紹介する。ここで興味を持った人が資料請求などにつながり、Zoomなどを使いながら営業活動に入る。
積水化学工業住宅カンパニーは、バーチャルでの展示場や分譲地、工場、ショールームなどの案内のほか、IT重要事項説明にも取り組む。また、SNSによる情報発信も手掛ける。
また、日曜日のプラン打ち合わせの前に、平日30分のオンラインでプラン作成にあたっての確認の打ち合わせをするといった活用も行っている。
リアルの重要性を再認識 住宅展示場で現場確認や体感
ウェブを活用した注文住宅の営業スタイルが定着する中で、課題や期待は何か。大和ハウス工業では、「住宅は高価な買い物であり、ウェブで完結するのは難しい」とし、ウェブに加え、住宅展示場や対面商談といったリアルな接点も共に重要だという認識だ。
また、ウェブの活用については「今後も重要な折衝形態として普及すると思われる。デジタルの進化によって、より効率的でリアルに近いプレゼンや打ち合わせが可能になる」(積水ハウス)と、新たな営業スタイルの更なる進展に期待する声もある。
住友林業は、コロナ禍で顧客の行動プロセスに変化が見られたと指摘。住宅展示場退場前にウェブで情報収集して「ある程度メーカーを選別しているお客様が増えてきたと感じている」(同社)と言う。そのため、ウェブ上でまずは住友林業の家づくりや特徴、良さをアピールして、選択されるように、今後も魅力あるコンテンツを制作、配信する必要があると考えている。
旭化成ホームズでは、選択肢が広がった一方、ファーストコンタクトが非対面であることが増え、営業担当の年代や顧客の年齢層によりオンラインの活用の仕方や対応に課題があると指摘する。同じように、積水化学工業住宅カンパニーにおいても、顧客のウェブ環境に依存することと、地域や担当者によって差があり、オンラインとオフラインの上手な使い分けを課題として認識している。
体感する場に
住宅展示場の位置付けは、営業スタイルの変化でどう変わったか。積水ハウスでは、VRでも実感できないリアルを実感する場としての役割が大きいと期待する。大和ハウス工業も今後も重要な役割があると認識しており、ウェブを含めた多様なチャネルを生かして営業活動を行っていく考えだ。
木造住宅の場合、木の良さや温もりを感じる場として住宅展示場を活用する。住友林業は、木の質感に加え、設備やプランの作り方、動線、最新の空間提案、家づくりの技術など顧客が同社の住まいを体感する場として認識し、活用しているという。三井ホームも同様の意見を持つ。
また、「集客~出会いの場」としての役割が減っていくと指摘するのは、パナソニックホームズ。ウェブをはじめ、紹介された顧客を適切な住宅展示場へ送客し、現物を確認する役割が主流になっていくとしている。
営業の柔軟性問われる
対面とウェブの割合は、今年3月末時点で「8対2の状況」(三井ホーム)と、まだ営業スタイルは対面が主流という指摘もある。アフターコロナは、顧客の意向や社会情勢に合わせて、バーチャルとリアルを柔軟に活用できる営業スタイルが確立できるかを各社に問うだろう。