なぜ空き家(利用目的が決まらない持ち家)が増えるのか。それは、「子供が親の家を継がないから」というのが最もシンプルな解答になる。実家が空き家になる具体的ケースで多いのは「両親とも亡くなって家を相続したとき」「両親が高齢者施設に入所したとき」「両親が郊外の戸建てから駅前マンションに転居したとき」などだ。
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ではそうして空いた実家がなぜいつまでも放置されるのだろうか。
国土交通省の「空き家実態調査」(複数回答・19年)によれば、「物置として必要」が60.3%で最も大きな理由となっている。次いで「将来自分や親族が使うかもしれない」(33.1%)、「特に困ってない」(24.7%)と続く。3位の「特に困ってない」は何をかいわんやで、困っているのは空き家の隣人のほうである。
事実日本の家はモノにあふれている。それもベッド、ソファ、ダイニングテーブル、書架など大型家具が部屋を占領している。昔の日本の家は畳が敷かれているだけで、何もない美にあふれていた。布団や普段使わないものは押し入れに入れていたから整理整頓が常にできていた。それが戦後、洋室に変わり、家具が固定化され、生活様式も膠着化し、いつのまにか季節感さえ失われていった。それを日本人は〝快適性〟と勘違いし、精神的にはモノグサな日本人になってしまったというのが筆者の思いだ。
空き家が増えているもう一つの理由として大きいのが日本人の根強い所有志向にあると思う。せっかく親が手に入れてくれた資産を手離すのがもったいないという気持ちである。たとえ古くて狭い家だとしても「資産」であることに変わりはない。しかし、放置する期間が長ければ長いほどその資産価値は落ちていくし、売ろうとした時は売却も賃貸もできない代物になってしまっているリスクがあることを忘れてはならない。
賃貸という選択
手離すことに抵抗があるのであれば、あまり老朽化しないうちに賃貸で貸し出すという方法がある。「見知らぬ他人に貸し出すのが不安」という人は多いが、信頼できる不動産会社に仲介を頼めば、「ヘンな人か普通の人か」くらいの選別はしてくれるはずだ。 ただ、貸すときは居住権が発生する普通借家権ではなく期限付きの定期借家権で貸すことを勧める。そうしておけば、万一不良借家人を入れてしまったとしても契約期間終了時には法律で退去させることができる。定期借家権は契約期間が自由なので最初は6カ月、2度目に再契約する時は1年、3度目は2年と徐々に長くしていくこともできる。定期借家契約には一定の手続きが必要だが、それも信頼できる不動産会社なら全て任すことができる。
今後、日本が空き家の発生を抑制していくためにはこうした戸建て空き家の賃貸化ビジネスに地域に根を下ろした不動産会社が積極的に参入し、それを自治体や国が支援していく体制づくりが必須になる。そもそも戸建て賃貸はアパートよりも子育て世帯には人気があるし、「庭作りもご自由に」とすれば希望者は多い。
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空き家戸建てを賃貸流通市場に乗せるには、地元不動産会社の協力が欠かせない。
相続など空き家が発生したらなるべく早期に募集をかけられるようにするためには、「空き家賃貸仲介」に特化した専門部署が必要なほど様々なノウハウが求められるからだ。家具についても処分しなければならないものと、残して新たな入居者に使ってもらえそうなものとの選別、オーナーが安心して管理を委託できるサブリース契約に成熟していることなどはその一端に過ぎない。
最大の鍵は空き家になる数カ月前から準備を進めることができるように、家族とのコンタクトを日頃から密にし、空き家の処置について家族間の意見をまとめておくことである。